【日系企業】JCC日系企業景気動向調査 26年は中東情勢が業況感押し下げ

バンコク日本人商工会議所(JCC)は年2回、会員企業を対象に景況・財務状況・関心事項などを調査。1971年以来56年間続く同調査は在タイ日系企業の景気動向を継続的・包括的に把握できる唯一のものでありタイ経済界からも注目されている。6月30日には「2026年上期・日系企業景気動向調査」の集計結果が発表された。
今回の調査は2026年5月12日に調査票をJCC会員企業に発送。6月5日までに504社が回答した。景気が「上向く」(見通し)もしくは「上向いた」(実績)と回答した企業の比率から、「悪化する」(見通し)もしくは「悪化した」(実績)と回答した企業の比率を差し引いた「業況感(DI)」は、25年下期(実績)が0だった。前回調査(26年1月27日発表)ではマイナス21(見通し)だったが、結果として当初の予測より上向くことになった。
26年上期(見通し)のDIはマイナス6となった。半導体・Ai関係の需要や設備投資が旺盛な一方で、中東情勢悪化による原材料価格や輸送コストの高騰、輸出減少などからマイナスに転じた。製造業では、自動車など輸送用機械は25年下期(実績)のプラス16から、26年上期(見通し)はマイナス12となり、28ポイント落ち込んでいる。また、非製造業では金融・保険・証券が0からマイナス20へと下落。この背景には中東紛争による貸出業務の停滞がある。建築・土木は10からマイナス22へと落ち込み幅が最大。資材価格の高騰が響いた形だ。
一方、26年下期(見通し)であるが、データセンター関連需要の高まりを見越し、建築・土木のDIがプラス3と好転しているが、全体として国内景気の低迷や中東情勢の混乱よるコスト高などからマイナス7と悪化する見込みとなった。
投資設備
在タイ日系企業の事業展開であるが、26年度に設備投資で「投資増」を見込む企業は23%で前回調査時(24年下期)と変わらなかった。これに対し「横ばい」を見込む企業は48%で5ポイント上昇。「投資減」を見込む企業は16%で3ポイント減となった。設備投資の内容(複数回答)であるが、回答数は「更新」(59%)、「合理化」(31%)、「DX関連」(22%)、「新規」(16%)、「拡張」(16%)、「環境関連(脱炭素施策含む)」(10%)の順。DX関連と新規は前回と順位が入れ替わった。
26年下期(7~12月)の輸出動向については、輸出の「増加」を見込む企業が37%で、前回調査時から2ポイント上昇した。「横ばい」見込みが42%で3ポイント減。また、「減少」見込みは21%となり、1ポイント増となった。
設定為替レート
事業運営上望ましい為替レート(バーツ/ドル)は、「30.0以上30.5未満」とする回答が全体の27.4%で最多。これに「32.0以上32.5未満」が19.5%で続く。中央値は「32.0」となった。前回は「30.0以上30.5未満」と「33.0以上33.5未満」が21.8%でともに最多だった。
一方、設定為替レート(円/バーツ)は、「4.0以上4.1未満」とする回答が全体の27.1%で最多となり、これに「3.5以上3.6未満」が17.8%で続く。中央値は「4.0」となった。なお、今回の調査期間中の実勢レートは4.9であり、輸出競争力へのマイナス圧力に注視が必要となっている。
経営上の問題点
経営上の問題点(複数回答)では、「原材料価格の上昇」(65%)が前回の5位から1位にランクアップした。2位は前回同様、「他社との競争激化」(58%)、3位は前回トップの「国内需要の低迷」(57%)、そして4位は前回11位の「物流コストの上昇」(49%)だった。
タイ政府への要望
タイ政府への要望事項(複数回答)では、前回調査で質問項目として設けられていなかった「イラン情勢への対応(価格安定・供給確保)」が全体の33%となりトップ。2位は前回3位だった「税還付及び税務調査関係の改善(還付手続きの複雑さや担当官による運用の違いなど)」(31%)が入った。そして、3位は前回2位の「家計債務問題」(30%)となった。
業種別では、製造業は「景気対策の推進(消費喚起、耐久財向け)」(32%)、非製造業では「ワークパーミット・ビザの発給に関する問題」(24%)も目立った。ワークパーミット・ビザ関連ではこれまでも窓口対応への不満が多く、「担当官の裁量による部分が大きすぎる」「待ち時間が長い」「書類が多く、しかも年により異なる」などの声が聞かれていたが、今回はワークパーミット申請・更新が電子化されたことで大混乱が起きたことも低評価の背景にある。
一方、日系企業が最近改善したと考える事項(複数回答)であるが、前回同様、「行政手続きの電子化」が21%で最多。2位は「交通インフラの整備」で前回3位からランクアップした。3位は「金融政策の安定化(為替・金利)」(13%)で前回20位から急上昇した。
地政学上の不透明性について
米国の関税政策の不透明性による影響としては、「ほとんど影響はない」が42%と最も多かった。以下、「ある程度影響がある」(39%)、「大きな影響がある」(8%)となった。
その対応策(複数回答)であるが、「必要性を感じていない」が37%で最多。以下、「特に取り組んでいないが、必要性を感じている」(25%)、「政策動向の情報収集・分析体制の強化」(19%)が続く。
また、米国の関税政策の不透明性に伴う影響を緩和し、タイでの事業継続・拡大のため、タイ政府に期待する支援策(複数回答)としては、「税制・補助金・金融措置による支援」が29%と最も多かった。以下、「国内での販路拡大支援」(26%)、「FTAの推進など第三国への販路開拓支援」(24%)となっている。
イラン情勢に関する不透明性について
イラン情勢の不透明性による原油価格や物流コストなどへの影響としては、「ある程度影響がある」が47%と最も多かった。以下、「大きな影響がある」(42%)、「ほとんど影響はない」(8%)と続く。約9割の回答企業が何らかの影響を受けていることが分かった。
その対応策(複数回答)としては、「原材料やエネルギー調達先の多様化」が46%で最多。これに、「エネルギーコスト上昇への対応策」(41%)、「在庫・物流体制の見直し」(36%)が続いている。
中東情勢緊迫化に伴うエネルギーや物流への影響を抑えるため、タイ政府に期待する支援策(複数回答)としては、「エネルギー価格上昇に対する価格抑制策」が78%で最多。以下、「物流コストや輸送遅延によるコスト増に対する税制・補助金・金融措置」(51%)、「エネルギー安定供給の確保」(46%)が続く。
人材について
直近1~2年前と比較した人材確保の難易度であるが、「変化はない(困難度は高いまま)」が37%と最も回答が多かった。次いで、「やや難しくなっている」(34%)、「変化はない(困難度は低いまま)」(24%)となった。
特に確保が難しくなっている職種(複数回答)は、「マネージャー(管理職)」(48%)、「エンジニア(生産技術、設計等)」(45%)、「デジタル人材(DX・AI推進)」 (27%)が上位3位だった。
また、人材を維持、獲得するための取り組み(複数回答)としては、「働きやすい職場環境づくり」が75%で最多。以下、「賃金、福利厚生の改善」(66%)、「教育訓練や能力開発の機会の提供」(43%)が続いた。
DX、AIについて
AIに関する取り組みについては、「活用の必要性があり、これから取り組む予定である」が32%と最も多かった。次いで、「活用の必要性があるが取り組んでいない」が25%、「既に活用しており、成果を認識している」が24%となる。
そして、前の質問で「既に活用している」、もしくは「活用の必要性を認識している」と回答した企業のAI活用の狙い(複数回答)としては、「資料作成・データ処理の効率化」が67%で最多。以下、「管理部門業務の効率化(経理、契約書処理など)」(43%)、「マーケティング・顧客分析」(41%)と続いている。
今後AIの活用を推進する際の課題(複数回答)としては、「AIを扱える人材やスキルの不足」が63%と最も多く、これに「個人情報、部外秘の流出リスク、データ管理」(59%)、「費用対効果が見込めない」(18%)が続いた。
