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タイ商務省 ノミニー摘発を8月から厳格化 バンコクなど16都県12万社が調査対象

タイ商務省事業開発局(DBD)が、外国人による偽装出資、いわゆる「ノミニー(名義貸し)」の摘発を一段と強化する。対象となるのは外国人出資比率が高いチョンブリやプーケットなど16県で、調査対象企業は約12万社に上るという。過去6カ月に新設された企業のうち3270社が、既にリスクグループとして分類されている。2026年8月1日からはタイ人株主や取締役に銀行明細の提出を義務付ける新制度が始まり、資金の実態が伴わない出資は登記段階で却下される見通しだ。違反すれば禁錮刑や罰金の対象になる。会計士や弁護士への監視も強まっており、タイでビジネスを行う日系企業にとっても人ごとではない。

タイには、小売業や建設業、観光関連事業など特定の業種で、外国資本の出資比率を原則49%までに制限する外国人事業法(FBA)という法律がある。この規制をすり抜けるため、外国人が実質的に経営する企業がタイ人の名義を借りて出資者や取締役を装う「ノミニー(名義貸し)」が長年問題視されてきた。そのため、タイ商務省事業開発局(DBD)は今回、この問題への対応を一段と強化する方針を打ち出した。対象となる地域は、外国人の出資比率が高く、名義貸しのリスクが大きいとされる16県。プーンポンDBD局長によると、ビジネス登記データや株主構成、財務諸表、会計事務所からの情報を分析した結果、調査が必要な企業は全国で約12万社に上るという。これらはいずれも外国人の出資比率が0.01%から49.99%の企業であり、なかでも同局が特に注視しているのは、出資比率が法定上限に近い40%から49.99%のグループだ。

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厳格化する摘発の詳細

対象16都県は、バンコク、サムットプラカン、サムットサコン、ナコンパトム、ノンタブリ、パトゥムタニ、チョンブリ、ラヨーン、スラタニ、プーケット、クラビ、パンガー、プラチュアップキリカン、チェンマイ、チェンライ、メーホンソンの各都県。バンコクおよび近郊6県では、極めてリスクの高い企業が7579社、リスクの高い企業が1752社確認されているほか、地方の10県では、極めてリスクの高い企業が1万8720社、リスクの高い企業が1万4118社見つかっている。地方と都市部を問わず広範囲で調査が進められており、当局の本気度が見て取れる。

また、過去6カ月間に限定すると、新設企業は1万8246社に上り、このうち3270社がノミニーによる株主保有を支援している可能性のあるリスクグループに分類された。リスクグループに所属する外国人の国籍は日本、中国、英国、インド、フランス、シンガポール、ロシア、韓国など多岐にわたり、日系企業も無関係とは言えない。

また、手口としてよく見られるのが、まず外国人の関与を隠すためにタイ人100%の会社として登記し、その後、取締役や株主を段階的に外国人へ切り替えていく方法だ。外国人が株式を保有する企業を重点的に審査する従来の審査網をすり抜けるための工夫とみられ、DBDはこうした構造変更についても厳しく監視する方針という。

DBDはすでに2026年1月1日から、外国人と共同出資するタイ人株主に対し3カ月分の銀行取引明細の提出を求める第一段階の措置を導入しており、この効果で1月から3月の間だけでリスク対象企業が5割超減少したと報じられている。これに続く第二段階として、2026年8月1日からはさらに厳格な新たな命令の施行を予定。具体的には、外国人と共同出資するタイ人株主および投資資金を受け取る取締役の双方に銀行明細の提出を求め、投資資金が適切な比率かつタイミングで実際に払い込まれたかを照合する。財務データに矛盾があれば、登記官はその場で登記申請を却下。さらに、タイ人100%で登記され、後に外国人企業へ構造変更した企業についても、同様の監視対象とする。なお、この8月からの新措置は公聴会の手続きを経て正式に確定される予定であり、実施時期や内容が変更となる可能性がある点には留意しておきたい。

プーンポン局長はさらに、8万人を超える会計士および9万人を超える弁護士・法律顧問に対しても、ノミニー登記の指南や支援をやめるよう警告。タイの法的文書はタイ語で作成されるため、外国人が単独で虚偽の登記手続きを進めることは事実上不可能であり、専門家の関与が問題の温床になってきたためだ。実際、DBDが8県の会計事務所を対象に行った調査では、29の会計事務所と140人の会計士が、外国資本の入った2040社の株式を保有していたことが判明しており、その株式評価額は合計25億3000万バーツに上った。財務省歳入局、内務省土地局、タイ王国警察庁、法務省特別捜査局(DSI)も含めた関係機関がデータを統合し、本格的な立件に向けて連携を進めている。

ノミニーに関与した場合の法的リスクは小さくない。外国人事業法第36条・第37条により、名義貸しをしたタイ人および利益を得た外国人はいずれも3年以下の禁錮、または10万バーツ以上100万バーツ以下の罰金、もしくはその両方が科される可能性がある。裁判所が会社の解散を命じることもあり、有罪となった外国人は国外退去処分および再入国禁止の対象となる可能性もある。

現場の実態と関連統計

DBDが特にリスクが高いとする業種は、観光関連、土地取引・不動産、eコマース・物流・倉庫、ホテル・リゾート、農業関連、建設の6分野だ。これらの分野では、タイ人と外国人の出資比率を51対49とするなど法定上限ぎりぎりに設定した上で、実態は外国人が経営を握るケースが多く見つかっているという。摘発は書類審査にとどまらない。事業開発局とは所管が異なるが、労働省雇用局も外国人の就労実態について現場調査を強化しており、ノミニーのリスク県の一つであるチョンブリでは、摘発が進んでいる。

2026年7月15日、チョンブリ県シラチャ郡のカオカンソンおよびボーウィンの両地区で、県雇用事務所が国内安全保障維持司令部(ISOC)、労働事務所、ボーウィン警察署と合同で、事業所や建設現場など5カ所を調査。これは密入国した外国人が違法に就労しているとの情報提供を受けた対応で、労働許可証を持たずに働いていた中国籍の労働者8人と、許可された範囲を超えて働いていた4人の合わせて12人が摘発され、警察へ引き渡された。違反した労働者を雇用していた事業主も告発の対象となった。これは外国人労働者管理に関する法律に基づく措置であり、ノミニー規制とは根拠法が異なるが、同じ県内で複数の当局が足並みをそろえて監視の目を強めている実態がうかがえる。違反した外国人労働者には5000バーツ以上5万バーツ以下の罰金、母国への強制送還、2年間の労働許可証申請禁止が科され、事業主にも労働者1人当たり1万バーツ以上10万バーツ以下の罰金が科される。再犯の場合は1年以下の禁錮、または労働者1人当たり5万バーツ以上20万バーツ以下の罰金、もしくはその両方に加え、3年間の外国人雇用禁止という重い措置が待っている。

ただ、摘発が強化される一方で、タイの会社設立自体は堅調に推移している。DBDの発表によると、2026年6月の新規事業登録件数は7979件で、前月比12.14%増、前年同月比13.61%増となった。2026年上半期(1〜6月)の累計新規設立件数は4万4773件で、前年同期比2.13%増となる。登録資本金は6月が152億3100万バーツで前年同月比15.91%減となったものの、事業への投資意欲自体は依然として底堅い。その一方で、6月の廃業登録件数は1760件(前年同月比19.89%増)、上半期累計では7024件(前年同期比12.49%増)に達しており、倒産・撤退する企業も増加傾向にある。なお、前年同期比で伸びが目立った業種は、インターネット小売業(1296件、56.90%増)、レストラン・飲食店業(2119件、15.67%増)、衣料品小売業(499件、83.46%増)であった。

さらに、外国人による対タイ投資も拡大している。外国人事業法に基づく2026年上半期の投資許可件数は640件で、前年同期比27%増、投資総額は1876億1400万バーツで同68%増となった。国・地域別の投資件数では、中国が110件(投資額354億7900万バーツ)、米国が107件(同60億4300万バーツ)で件数上位を占めたが、投資額でみると日本は87件(446億6200万バーツ)となり、件数では中国・米国に次ぐ3位ながら、投資額では両国を上回る規模となっている点が注目される。このほかシンガポールが83件(378億6700万バーツ)、香港が59件(130億8800万バーツ)で続く。このほか、東部経済回廊(EEC)への投資は199件で全体の31%、投資額は837億7900万バーツで全体の45%を占め、このうち日本からの投資は28件、223億8600万バーツとなった。日系企業にとって、タイの投資環境自体は依然として魅力的である一方、その裏側でノミニー規制が厳格化している構図を理解しておく必要がある。

タイで事業を展開する、あるいは進出を検討する日本企業にとり重要なのは、自社の出資構造や合弁先の実態がノミニーとみなされるリスクを抱えていないかを今一度点検することだ。特に出資比率が40%台後半に近い合弁形態や、タイ人パートナーの出資資金の出所が不透明なケースは、8月からの新制度で登記を却下されたり、後日の調査対象となったりする可能性がある。今後は現地の法律専門家と連携し資金の流れを客観的に説明できる体制を整えておくことがリスク回避の第一歩となる。

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