⽇系企業景気動向調査 23年下期に落ち込むも24年上期は回復に期待
バンコク日本人商工会議所(JCC)は年2回、会員企業を対象に景況・財務状況・関心事項などを調査。1971年以来53年間続く同調査は在タイ日系企業の景気動向を継続的・包括的に把握できる唯一のものでありタイ経済界からも注目されている。1月30日には「2023年下期・日系企業景気動向調査」の集計結果が発表された。
今回の調査は2023年11月28日に調査票をJCC会員企業1646社に発送。12月20日までに539社が回答した。回収率は32.7%。景気が「上向く」(見通し)もしくは「上向いた」(実績)と回答した企業の比率から、「悪化する」(見通し)もしくは「悪化した」(実績)と回答した企業の比率を差し引いた「業況感(DI)」は、23年上期(実績)がマイナス10、23年下期(見通し)がマイナス16、24年上期(見通し)がプラス10となった。23年下期(見通し)のDIは、エネルギーコスト低下、インバウントの継続回復などによる好影響がみられる一方で、耐久財消費の不振、世界経済の回復ペース鈍化と金融引き締めによる輸出伸び悩みなどによりマイナス16と落ち込みをみせた。
ただ、24年上期(見通し)のDIは、インバウンドの回復継続、新政権の景気対策効果および輸出需要回復への期待などからプラス10と伸びている。
投資設備
在タイ日系企業の事業展開であるが、24年度に設備投資で「投資増」を見込む企業は24%となり、前回調査時から6ポイント下降した。これに対し「横ばい」を見込む企業は45%で、同4ポイント上昇。「投資減」を見込む企業も15%で同2ポイント増となった。
24年上期(1 ~ 6月)の輸出動向については、輸出の「増加」を見込む企業が25%、「横ばい」見込みが57%、「減少」見込みが17%となり、現状維持を見込む企業が増えている。
今後の有望輸出市場(複数回答)であるが、「ベトナム」が45%で前回に続きトップ。以下、「インド」(44%)、「インドネシア」(31%)、「日本」(17%)、「米国」(16%)、「マレーシア」(15%)と続く。上位6 位は前回と順位が変わらなかった。過去の最高順位が4位であり「アジア最後のフロンティア」とも称されたミャンマーは過去に2回連続して上位15位から外れたが、今回は13位と順位を上げた。このほか、カンボジアが前回10位から今回7位へと上昇。これに対し、中国は7位から10位へと順位を下げている。
設定為替レート
業務計画における設定為替レート(バーツ/ドル)は、「35.0以上35.5未満」とする回答が全体の34.2%で最多。前回もこのレンジが最も多かったが比率はほぼ倍増している。これに「35.5以上36.0未満が15.7%」で続く。中央値は35.0。前回調査時に次点となったのは「34.0%以上34.5%未満」(14.8%)であり、今回は一部の企業が設定為替レートを若干バーツ安に修正した。
設定為替レート(円/バーツ)は、「4.0以上4.1未満」とする回答が全体の33.4%で最も多かった。これに「4.1以上4.2未満」が16.9%で続く。中央値は4.0。前回調査時は、「3.8以上3.9未満」が全体の28.2%と最多であり、これに「3.9以上4.0未満」が22.3%で続いた。今回、一部の企業が設定為替レートを若干円安に修正した。
経営上の問題点
経営上の問題点(複数回答)では、前回同様、「他社との競争激化」(66%)が最多となった。以下、「総人件費の上昇」(46%)、「原材料価格の上昇」(44%)、「為替変動の対応」(30%)と続く。業種により差異のある項目としては、製造業で「エネルギーコストの上昇」(35%)、非製造業では「製品・利用者ニーズの変化への対応」(26%)が目立つ。
タイ政府への要望
タイ政府への要望事項(複数回答)では、前回3 位の「関税や通関に関わる制度・運用の改善」(36%)がトップとなった。在タイ日系企業からは手続きの遅れ、係官による対応の違いなどが不満として挙がっており、JCC ではタイ政府に善処を求めている。以下、「交通インフラの整備」(32%)、「景気対策の推進(消費喚起)」(31%)と続く。業種別では、製造業は「為替の安定化」(38%)、非製造業は「外国人事業法の緩和」(26%)なども多かった。
一方、日系企業が最近改善したと考える事項(複数回答)であるが、前回同様、「交通インフラの整備」が33%で最多。第2位は「通信インフラの整備」で13%だった。第3位は「ワークパーミット・ビザの発給に関する問題」(12%)で前回6位から3位に上昇した。
タイ国内および周辺国への事業展開
タイ国内および周辺国への事業展開の状況(複数回答)については「進出の予定はない」が57%で最多。以下、「既に進出している(2021 年以降に進出の場合)(32%)「進出を検討中」(9%)となった。
検討中を含む進出先(複数回答)であるが、「ベトナム」が48%で最多。これに、「インドネシア」(39%)、「バンコク首都圏」(36%)が続いている。
タイ国内への進出理由(複数回答)であるが、「事業の拡大」が72%で最多。以下、「市場規模・成長性」(51%)、「産業の集積」(16%)と続く。
これに対し、周辺国への進出理由(複数回答)としては、「進出先の市場規模・成長性」が73%、これに並ぶのが「事業の拡大」で69%だった。第3 位は「より安価な人件費」となっているが、回答企業数の割合は19%に止まった。
一方、進出する予定がない理由(複数回答)については、「当面、所在地での事業に注力」が91%と飛びぬけており、第2位は大きく離れて「育成した従業員の存在」(11%)、「駐在員の生活環境」(4%)となっている。
発効を望むFTAについて
発効を望むFTAについては、「EU」が36%で最多。これに、「CPTPP」(33%)、「欧州自由貿易連合(EFTA)」(31%)、「太平洋同盟」(21%)、「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」(12%)と続いた。
AI について
AI の取り組み状況としては、「活用の必要性があるが取り組んでいない」が40%と最多。以下、「活用の必要性があり、これから取り組む予定である」(29%)、「活用の必要性がなく、取り組んでいない」(18%)となった。
AI活用の狙い(複数回答)としては、「製品などの不良品検査や外観検査」が33%と最も多かった。これに続くのが、「文章作成業務の補助」(31%)、「工場や機械などの異常検知」(31%)。
AI を推進する際の課題(複数回答)としては、「個人情報、社内秘の流出リスク、データ管理」が41%と最多。以下、「費用対効果が見込めない」(39%)、「どう取り組めばよいのか分からない」(26%)となっている。