「日本とタイの会計システムの違い」Q&A(後編)

「日タイ会計システムの違い」を担当実務者向けにまとめました。両国の制度の違いから生じるトラブルを事前に解消するための「転ばぬ先の杖」としてご活用ください。
- 売上税(消費税/VAT)の取り扱いに違いはありますか?
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はい、制度の設計思想と対象範囲に大きな違いがあります。
日本タイ- 消費税(10%)は「インボイス制度(適格請求書保存方式)」が2023年に導入され、適格請求書発行事業者以外との取引では仕入控除ができないなど、事業者選別の側面が強い制度です。納税義務者は年間売上高が1000万円超の事業者です。
- VATは7%(軽減税率)、基本的に物品・サービスの提供に広く課税されます。売上高が年間180万バーツを超える場合はVAT登録義務があり、VATインボイス発行が求められます。また、輸出は0%課税で還付対象となるため、輸出型企業は還付請求のノウハウも必要です。
- 源泉徴収制度に違いはありますか?
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タイの源泉徴収制度は日本より対象範囲が広く、実務負担も大きいです。
日本タイ- 給与や報酬、利子・配当など一部の支払いに対して源泉徴収義務がありますが、外注費などの多くは対象外であり、範囲が明確で限定的です。
- 家賃、外注業務、広告費、ロイヤリティ、管理費など多くの支払が源泉徴収の対象になります。例えば以下のような税率が適用されます:
・サービス料:3%
・広告料 2%
・家賃:5%
・輸送料、保険料:1%
・給与:5~35%(累進課税)
支払いの都度源泉徴収し、翌月7日(または15日)までに申告・納付が必要です。源泉徴収漏れは加算税+罰金対象となるため、契約書段階から注意が必要です。
- 会計帳簿の保存期間は?
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両国とも帳簿保存義務はありますが、対象資料と管理の厳しさに違いがあります。
日本タイ- 税務調査や会計監査に備え、帳簿や請求書などを原則5年間以上保管する必要があります。電子保存も可能ですが、要件が厳しく、スキャナ保存制度や電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
- タイでも帳簿類(仕訳帳、売上帳、仕入帳、元帳等)を7年間保存する義務があります。なお、税務調査の対象期間は基本的に5年間ですが、不正が疑われる場合は10年間遡及される可能性があります。タイでは紙保存が基本ですが、電子帳簿制度も徐々に認知されつつあります。
- 会計ソフトの運用に違いはありますか?
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ソフトウェア選定時の基準や言語対応に大きな違いがあります。
日本タイ- 弥生、freee、マネーフォワードなど、中小企業向けのクラウド型ソフトが普及。仕訳入力から決算書出力まで一気通貫で対応でき、API連携による銀行データ自動取得なども進んでいます。
- 「Oracle Netsuite」「Winspeed」「Express」「FlowAccount」「Peak」など、タイ語対応・VAT帳票出力・源泉徴収票印刷に対応したソフトが主流です。日本製ソフトをそのまま使うと、帳票がタイの法定様式に合致せず、トラブルの原因になります。外国人経営者向けに英語GUIを備えたソフトもありますが、帳簿出力はタイ語である必要があります。
- 電子帳簿や電子申告制度の整備状況は?
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日本は電子化が進んでいますが、タイは一部にとどまっています。
- e-Tax、eLTAX、電子帳簿保存法など制度整備が進んでおり、ペーパーレス・クラウド管理が可能です。スキャナ保存・電子取引の義務化も進んでおり、帳簿管理の効率化が進行中です。
- e-Filing(電子申告)は非常に普及しており、税務申告や社会保険手続きはオンライン化が進んでいます。
- 税務調査の頻度・スタイルの違いは?
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調査スタイルと対応方法に文化的・制度的違いがあります。
日本タイ- 事前通知型が基本で、税理士が立ち会い、納税者の意見も尊重される「対話型調査」です。過少申告加算税、延滞税、重加算税の仕組みも整備されており、透明性と予見性の高い制度です。
- 事前通知がある場合もありますが、突然の立ち入り調査も少なくありません。税務署職員の裁量が大きく、領収書不備・VATインボイス・領収書不整備が重大な指摘ポイントになることが多いです。交渉対応が必要となるケースもあり、現地専門家の関与が不可欠です。
- 罰則制度やコンプライアンス対応に違いはありますか?
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罰則の厳格さ・柔軟性に差があります。
日本タイ- 加算税・延滞税・重加算税などが細かく定義されており、一定の法的安定性があります。行政指導の側面が強く、事後的な是正を受け入れる余地があります。
- 遅延提出・未申告には、一律罰金(2,000~20,000バーツ)+加算税(最高1.5%/月)が課されます。VAT還付の遅延や帳簿不備も重罰対象であり、タイのコンプライアンスは「形式重視・書類重視」の傾向が強いため、提出書類の整備が極めて重要です。なお、売上高は2億バーツを超える企業はDiscloser Formを通じて申告する必要がありますが、この形式を怠った場合は20万バーツの罰金が科せられます。
- 日本本社との連結会計のしやすさは?
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使用基準の親和性と通貨換算ルールがポイントです。
日本タイ- 多くはJ-GAAPまたはIFRS基準で連結決算書を作成。海外子会社からの報告書は現地基準で作成されているため、調整・換算の必要があります。
- TFRS(IFRS準拠)で作成されているため、IFRSベースの日本本社とは親和性が高いです。通貨換算には為替変動の影響を考慮し、換算差額の処理(包括利益計上など)も必要になります。
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