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【政治】タイ貢献党が下院解散の手続きを開始、一方、タイ威信党は首相指名選挙に向け準備

憲法裁判所の判断によりペートンタン首相が失職した後、タイ貢献党政権で首相代行を務めていたプームタム副首相兼内相は9月3日午前9時ごろ、下院解散の手続きに入ったことを発表した。これは同日朝、最大野党・人民党が次期首相としてタイ威信党のアヌティン党首を条件付きで推すと決めたことを受けてのものだ。

人民党はペートンタン首相失職時、即時下院解散を訴えていたが、その後、幾分トーンダウンして施政方針演説後4カ月以内の下院解散を首相候補に投票する条件とした。このほかにも、憲法改正の是非を問う国民投票の実施などを求めており、タイ威信党およびタクシン派・タイ貢献党の双方が全条件受け入れを表明していたが、最終的に人民党はタイ威信党を選んだ。この背景には、2023年の下院総選挙で人民党の前身政党である前進党が第一党となり政権樹立に向けてタイ貢献党と協調・協働することを明記したMOUを結んだが、タイ貢献党はこれを一方的に破棄。この破棄は改悪された憲法の規定からして致し方のない点もあるが、「タイ貢献党は信用できない」との思いは人民党内で強いとされている。かといって、タイ威信党を信用できるとみているわけではなく、また、政権樹立後も適材適所から遠く離れた閣僚人事となることはほぼ確実であるが、下院解散の約束を反故にされる可能性がタイ威信党の方が小さいとみて、消去法で陣営を選んだという点は否定できない。

タイ威信党陣営およびタイ貢献党陣営の議席数であるが、9月3日の時点で威信党が146議席、タイ貢献党陣営が204議席となっている。下院定数は500議席のうち、現在の議員数は492。首相指名選挙では現議席数の過半数の賛成票(最低247議席)が必要となる(下院議長は慣例として投票しない)。このため、首相指名選挙に勝つためには、最大議席を持つ野党第一党・人民党の支持が不可欠となっていた。そして結果として、タイ威信党陣営は人民党を支持を取り付け、289議席の支持を集めることに成功。首相選挙での勝利を確実なものとした。

一方、9月3日午後1時の時点でタイ政局は2つの工程が同時進行しており、各陣営ともに半ば暗中模索の様相を呈している。

下院解散を選んだタイ貢献党陣営であるが、下院解散を国王に奏上後、中央選挙管理委員会が5日以内に次期総選挙の日程を決め、解散後45日~60日以内に総選挙が実施される。中央選管が当選を認定した後、15日以内に最初の下院議会が招集され、来年1月に第32代首相が指名されることになる。

これに対して、首相代行に下院解散権はなく下院開催は無効とするタイ威信党陣営は今後、9月5日の下院議会で首相指名選挙を行い、ここでアヌティン党首が第32代首相に選出される道筋を描く。そして、施政方針演説後、4カ月以内に下院解散(来年1~2月)。下院解散後、45~60日以内に総選挙を行い、第33代首相の指名は来年4~5月になる見通しだ。

ここで問題となるのが、首相代行に下院解散権があるのかどうかという点だ。法律最高諮問機関である法令委員会(COS)のパコン事務局長は、下院を解散する権限は現役首相にのみ認められ、首相代行にはその権限がないと指摘。「法律の教本に従えば、首相代行に解散権限はないことは明白」と強調する。これに対し、プラユット軍事政権が法相を務めた法律専門家であるウィサヌ氏は「首相代行も解散権を有する」との立場をとる。法律専門家の間でも意見が分かれているだけに、最終的な着地点が今の時点ではみえない。

タイ威信党は下院議長に対して首相指名のための特別国会を大至急開催するよう要求しているが、アヌティン首相支持の立場を表明したばかりの最大野党・人民党からは、下院解散は国王陛下を認可を必要とするため下院解散の手続きが無効になったことがはっきりするまで首相指名のための特別国会召集は延期した方がいいとの見方を示す。

カンボジアとの国境紛争、トランプ相互関税への対応、物価高対策、洪水対策など国家的課題が山積みのなか、タイ政局は袋小路に入り込もうとしている。

直近のタイムライン
9月2日
16:30 最大野党・人民党が次期首相にアヌティン・タイ威信党党首を推すことを議決したとの報道が流れる
17:00 タクシン派政権党であるタイ貢献党幹事長が下院解散の手続きを始めたと発表
17:05 タイ貢献党のプームタム首相代行が下院解散を国王に奏上したとの報道が流れる
17:10 人民党が「誰を次期首相に推すかの議決は明日に持ち越された」と発表
17:05 プームタム首相代行が「下院解散を国王に奏上した」とする報道を否定

9月3日
09:00 人民党が「次期首相にアヌティン・タイ威信党党首を推すことを議決した」と発表
09:05 タイ貢献党報道官が「すでに下院解散を国王に奏上している」と発表
10:36 プームタム首相代行が「昨日(2日)、下院解散を国王に奏上している」と前言を撤回する発言
11:46 アヌティン・タイ威信党党首が記者会見で「人民党の要求をすべて受け入れ、下院議席の半数に満たない146議席の政権を発足する」と発表

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