【経済】政府と銀行協会が58年ぶり公式会合、家計債務削減と流動性強化で総力戦
アヌティン首相兼内相は9月22日、タイ銀行協会と主要商業銀行の幹部を首相府に招き、経済閣僚とともに会合を開いた。首相と銀行協会が公式に会合するのは実に58年ぶりであり、家計債務や中小企業(SME)の資金繰り問題を中心に「Quick Big Win」政策を推進するための協力体制を確認した。
家計債務とSME資金繰り
タイ中央銀行の統計によれば、2025年上半期の家計債務残高は15兆バーツを超え、GDP比91%に達している。アヌティン首相は「返済能力のある世帯や企業に新たな資金を供給することが急務」と述べ、銀行に対して柔軟かつ迅速な債務再編を求めた。とりわけSMEは輸出市場の減速や原材料高で資金繰りが厳しく、金融支援が強く求められている。
銀行協会のパヨン会長は「流動性自体は十分にあるが、重点分野への資金供給が不足している」と指摘。政府は観光、医療、農業、自動車、高度産業を重点支援分野に定め、銀行と協力して資金を流す仕組みを構築する方針である。
バーツ高と地下経済への対応
エクニティ財務相は「強いバーツと地下経済が資金フローをゆがめている」と述べ、中央銀行やマネーロンダリング対策局と連携した特別タスクフォースの設置を発表した。外貨や金取引を通じた不透明資金の流入を監視し、健全な市場環境を整えることを狙う。金融当局は「資金の流れを正確に把握しなければ政策効果が損なわれる」と警告している。
輸出市場の多角化
スパジー商務相は「中国や米国に依存する輸出構造からの脱却が不可欠」として、タイブランド製品の輸出促進を強調した。特に食品加工や医療観光の分野では、ASEAN域内や中東市場で需要が高まっており、政府は市場開拓を後押しする。
国際通貨基金(IMF)の報告によれば、タイの輸出依存度はGDP比60%を超えており、外需ショックに脆弱という。そのため、タイ政府は輸出先多角化と国内消費の刺激を並行して進め、安定した成長モデルの確立を目指す。
今後の展望
内閣の政策演説は9月末に予定されており、政権運営は現行法を最大限活用し、経済と治安の問題に対応する方針である。議会の任期が限られているため、新法案提出よりも即効性ある施策に注力する方針だ。
アナリストらは「今回の会合は政府と銀行が情報を共有し、具体的な資金支援策を策定するきっかけになる」と評価する。ASEAN諸国の家計債務のGDP比率は平均70%前後であり、タイの水準は際立って高い。債務問題を抑制できるかどうかが、経済安定の試金石ともなる。
銀行協会は「今後4カ月以内に成果を示すことが国民への説明責任」と強調し、政府と民間の協力による実効的な対策を進める姿勢を明らかにした。
