【経済】タイ証券取引委 タイ資本市場競争力向上と投資家信頼回復目指す
タイ証券取引委員会(SEC)は2025年9月下旬、タイ資本市場の競争力向上と投資家信頼回復を目的とする包括的改革案を発表した。財務省財務政策局、証券取引所(SET)、資本市場団体連合と連携し、長期投資促進やIPO手続き簡素化、環境・社会・ガバナンス(ESG)基準の導入を進める方針だ。
背景と課題
SECは「過去10年間の株式リターンはASEAN平均を下回り、投資家の魅力度が低下している」と指摘する。米国のモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)が算出する世界的な株価指数であるMSCI指数でのタイ比率は低下傾向にあり、2020年には1.8%あった比率が2025年には1.3%に縮小した。IPO件数も減少しており、2024年の新規上場はわずか14社にとどまった。個人投資家の市場参加率はピークの40%から現在は30%台前半に低下している。
SET統計によれば、2025年上半期の平均株式取引額は1日当たり650億バーツで、前年同期比15%減少。取引の中心は依然として金融・エネルギー株だが、成長産業であるデジタル関連銘柄が乏しく、新規資金流入を呼び込みにくい構造となっている。
改革の柱は4分野
改革案は大きく4分野に分かれる。①個人投資口座を通じた長期投資誘致、②高品質企業の上場誘致とESG開示ロードマップ、③コーポレートガバナンス(CG)の強化と中小企業の情報開示、④電子委任状投票などデジタル基盤の拡充となる。
SECは「ESG開示義務化は国際資本との接続を強める」とし、企業に対しサステナビリティ報告書の作成を求める方針を示した。またIPO市場の低迷打開に向け、審査プロセスを迅速化し、スタートアップ企業向けの特別上場枠を検討している。
国際比較と投資家動向
マレーシアやインドネシアでは、資本市場改革を進めた結果、外国人投資比率が上昇している。タイは2025年1~8月の外国人投資額が260億バーツの流入超となったものの、シンガポールやベトナムに比べると規模が小さい。投資家からは「制度の透明性と市場流動性が不足している」との声が多い。
世界銀行は最新レポートで「タイは高齢化により国内貯蓄率が低下しつつあり、海外資本の呼び込みが今後の持続的成長の鍵」と指摘した。SECは「規制緩和と透明性強化を同時に進めることで、国際資金調達競争に後れを取らない」と強調する。
投資家保護と信頼回復
個人投資家の信頼を取り戻すため、SECは市場操作やインサイダー取引の監視体制を強化し、罰則を厳格化する方針を打ち出した。さらに、中小企業が資金調達しやすい仕組みとして、クラウドファンディング市場や地域証券市場の拡充も検討している。
業界団体は「今回の改革は単なる規制見直しではなく、資本市場を成長戦略の中心に据えるもの」と評価している。証券会社からは「市場の信頼性が回復すれば、長期投資家の資金流入が増える」との期待が示された。 SECは今後1年以内に改革の第1段階を実施し、2026年までに制度基盤を整える計画である。アナリストは「改革の実効性次第で、タイ市場は再び外国人投資家の注目を集める可能性がある」と予測している。
