【車両】タイ自動車産業界 販売金融3割増実現のため政府に基金設立求める
タイの自動車生産台数は今年8月に11万2366台となり、前月(25年7月)比で1.58%増加したが、前年同月比では6.11%減となった。減少した主な理由は、乗用車の一部車種の生産終了や、輸出先での安全装置と排出ガスに関する規制強化だ。輸出向けのピックアップ生産も落ち込み、全体を押し下げた。一方で、タイ国内向け生産は4.11%増となり、電気自動車(EV)の生産が下支えした。1~8月の累計生産は94万7697台で、前年同期比5.77%減となった。
8月のタイ国内販売台数は4万7622台。前月は3.01%減少したが、前年同月比では5.38%増と持ち直している。このうち乗用EVの販売台数は9246台で、前年同月比26.62%増と勢いが続く。ただ、ピックアップ販売は1万0960台で、前年同月比10.92%減と落ち込みが続いている。金融機関の審査が厳しく、家計の余力が弱いことが響いた。なお、1~8月の国内販売は39万9619台で、前年同期からの増加はわずかであった。
新車登録でもEVが伸びた。8月のBEV新規登録は1万1486台で、前年同月比30.46%増。1~8月累計は9万2665台で、34.49%増となった。需要の底上げが生産計画の下支えになっている。
「損失補填基金」の創設を進言
タイ産業界は政府に対し需要喚起のための提案を行っている。新政権の経済加速方針を踏まえ、産業界は5つの狙いを掲げる。第一に内需てこ入れ、第二に販売金融の機能回復、第三にサプライチェーンの稼働率改善、第四に投資の底割れ回避、第五に輸出競争力の維持である。
具体策としては、ピックアップの貸し倒れに備える「損失補填基金」の創設を進言。基金規模は50億バーツを想定し、差し押さえ後の売却で出た損失を1台あたり5万バーツ以下で補填する。基金利用の条件として金融機関は前年より30%以上多い販売金融を実行する必要がある。たとえば前年13万台なら、本年は17万台への上積みを求める。政府予算であるが、仮に4万台の増分に対し上限まで補填した場合でも20億バーツにとどまる。
その一方で歳入効果は同基金を上回る。平均車両価格を60万バーツとすると、増分4万台の課税対象額は240億バーツ。ここから物品税3%で7億20万バーツ、付加価値税7%で16億8000万バーツが見込める。2税合計は24億バーツで、想定基金20億バーツを上回る計算となる。さらに、タイヤ16万本、ガラス4万枚、エアコン4万台、排気系4万本など関連部材の増産で法人税と個人所得税の税収が広く波及する。雇用の増加は家計の返済能力を高め、消費と旅行者数を押し上げる。
さらに、生産指数の押し上げと投資の呼び水にもなる。稼働率の改善は海外と国内の投資マインドを支え、輸出数量の回復にもつながる。財源負担は、実際に差し押さえが発生し売却損が確定した時点で支出されるため、キャッシュフロー面の硬直も小さい。つまり、景気の下支えと税収増を同時に実現できることになる。
