【政治】タイ南部治安改善へ首相が初訪問 和平交渉の進展に自信示す
タイ最南部のナラティワート、ヤラ、パタニの3県および隣接するソンクラ県の一部地域では、イスラム教徒が人口の大半を占めることから、約20年前から分離独立を掲げるイスラム過激派によるとみられる襲撃事件が続発し、治安の悪化が長期化している。タイ政府にとって南部の安定は長年の最重要課題の一つであり、これまで複数の政権が和平交渉を試みてきた。
アヌティン首相は10月11日、首相就任後初めて南部地域を訪問し、和平交渉の進展に強い自信を示した。首相は、政府が新たに設置した「南部和平交渉委員会」の委員長にソムサク大将を任命したことを明らかにし、「経験豊富な軍高官が主導することで、長年の不信を払拭し、恒久的な和平につながる道を開く」と強調した。
タイ内務省のデータによれば、2004年以降、南部3県で発生した暴力事件は累計約2万件に達し、死亡者は7400人以上、負傷者は1万3000人を超える。事件の大半は小規模な爆発や銃撃で、学校や警察署を狙ったものも多い。住民の中には恐怖から他地域へ避難する者も少なくなく、地域の経済や教育にも深刻な影響を及ぼしている。
アヌティン首相は現地での記者会見で、「軍事的な取り締まりだけでは根本的な解決は得られない。宗教・教育・経済を含む包括的なアプローチが必要だ」と強調。政府は今後、地元宗教指導者やマレー系住民の代表との対話を強化し、紛争の背景にある社会格差や若年層の失業問題の是正にも取り組む方針を示す。
国防省関係者によれば、和平交渉はマレーシア政府の仲介で進められており、2025年中にも新たな和平合意への署名が検討されているという。国際社会からも、ASEANを中心に和平プロセスへの支持が表明されている。
タイ政府は「南部の安定こそが国家経済の持続的発展の鍵である」としており、同地域への公共投資と雇用創出策を拡充する考えを示した。首相の今回の訪問は、治安維持と住民信頼回復に向けた新たな政治的メッセージとして注目を集めている。
