【IT】AI人材不足が企業成長の壁に 懸念されるタイ経済のデジタル化の遅れ

国際会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が発表した最新調査によると、タイ企業の約63%が「AI導入を検討または実施中」と回答する一方で、半数以上が人材不足を最大の障害と感じていることが明らかになった。タイ英字紙「パンコクポスト」WEB版が伝えた。調査は2025年9月に東南アジア6カ国で実施され、回答企業はタイ国内で312社に上る。
特に課題として挙げられたのは、「AIモデルを運用・保守できる専門人材の不足」(56%)と、「データ管理・プライバシーリスク対応力の欠如」(41%)だ。PwCタイ法人のマネージングパートナー、スティチャイ氏は「AIは単なる自動化技術ではなく、データの質と人材の理解力が成果を左右する。現状の教育体系では業界ニーズに追いついていない」と指摘する。
タイ政府もこの課題を認識しており、デジタル経済社会省(MDES)およびデジタル経済振興庁(DEPA)は、2024年から「AI Thailand Roadmap」を展開し、2030年までにAI専門人材10万人を育成する目標を掲げる。ただ、DEPAの最新報告によれば、現在の育成実績は2万人弱にとどまり、計画達成は大幅に遅れる見通しだ。
AI関連職種では賃金の高騰も顕著。タイ国家統計局(NSO)のデータによると、AIエンジニアの平均月給は2023年の4.8万バーツから2025年には6.2万バーツに上昇した。特に金融、製造、物流分野でAIによる需要予測や品質管理の活用が進んでいるが、中小企業は人材確保が難しく、導入コストを回収できないケースも多い。
さらに、AIの導入効果を最大化するには「データ標準化と部門間連携」が不可欠。国家経済社会開発評議会(NESDC)は2025年版「タイ経済構造改革レポート」で、AI活用の遅れがGDP成長率を年間0.4ポイント押し下げる可能性があると警告した。報告書では、官民共同でデータ共有基盤を整備する「National Data Exchange(NDX)」の早期構築が提言されている。
一方、グローバル企業ではタイ拠点をAI開発の地域ハブとする動きが始まっている。マイクロソフト、IBM、サムスンなどがバンコク近郊で人材トレーニング拠点を設立し、英語・タイ語・日本語を活用できる多言語AIエンジニアの育成を進めている。
PwCは報告書で「タイ企業はAI導入そのものよりも、人材とデータをいかに統合できるかが成否を分ける」と総括した。
