【商業】「コスパ」重視のタイ人消費者 大容量・低単価が好調 経験型支出に伸び

タイ商務省の発表によると、2025年9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.5%増にとどまり、6カ月連続で1%未満の伸びとなった。エネルギー価格の安定と農産物価格の下落が影響し、インフレ懸念が後退する一方で、消費者の購買行動に新たな変化が現れている。
小売大手セントラル・グループの調査では、都市部消費者の72%が「コストパフォーマンスを最重視して買い物をする」と回答。特売・ポイント還元を活用するほか、まとめ買いする傾向が強まっているようだ。食品・日用品分野では「大容量・低単価」商品が好調で、ファミリーパックやリフィル製品の売上は前年比18%増となった。
一方、国家経済社会開発評議会(NESDC)は、物価安定が実質購買力の回復を後押ししていると分析。2025年第3四半期の実質民間消費は前年同期比3.1%増で、特に中間所得層の支出が堅調に推移している。しかし、高所得層の高級品需要はやや鈍化しており、ラグジュアリーブランドは割引販売を余儀なくされている。
ただ、物価は安定に向かっているものの、家計の節約志向は強い。カシコン銀行リサーチ部は「タイの消費者は“節約とご褒美の両立”を求める行動様式に変化した」と指摘。旅行や外食など「経験型支出」は前年より14%増えたが、衣料・家電など耐久財の購入は横ばいにとどまった。
現在、注目されているのは、地方消費の回復だ。政府の景気刺激策により地方の購買力が上向き、中核都市では小売売上が前年同期比8%増となった。タイ国政府観光庁(TAT)によれば「地方観光需要が中小事業者の売上回復に寄与している」という。
価格設定とブランド戦略を見直し
企業側は新たな消費トレンドに対応するため、価格設定とブランド戦略を見直している。セブンイレブンを運営するCPオールは、低価格帯PB商品を拡充しつつ、即食・健康志向商品ラインを増やしている。ユニリーバ・タイランドも「Eco Refill Station」を全国展開し、環境意識と節約志向を両立させた販売モデルを推進中だ。
なお、商務省内閣経済政策局の報告書は「インフレが落ち着いた今こそ、消費者の“選択理由”を熟考する時期」と結論。購買の質を問う時代に入り、企業は価格戦略から価値訴求型マーケティングへの転換を迫られている。
