【経済】SME D銀行、年内貸出750億バーツへ NPL比率が8.7%まで改善
タイ政府系の中小企業金融機関SME D銀行は、2025年通年の融資実行額を750億バーツとみており、前年比25%増の成長を見込む。第4四半期だけで少なくとも200億バーツを新規に貸し出す計画で、年初に掲げた目標を上回るペースで資金供給を続けている。
同銀行によると、政府が進める「Quick Big Win」政策や、共同負担方式による「コン・ラ・クルン・プラス(Khon La Khrueng Plus)」、福祉カード給付の上乗せといった景気刺激策が、零細・中小企業の資金需要を押し上げている。これらの施策には合計665億バーツの予算が配分され、最終的には1千億バーツ超の経済波及効果を生むことが期待されている。
SME D銀行が実施した中小企業信頼感指数調査では、経済見通しに対する中小企業の信頼度は第3四半期の67.1%から、第4四半期には80.6%へ大きく上昇した。これに呼応する形で、同銀行向け融資需要も拡大しており、第4四半期年初来ベースの融資申請は全体の42.2%と、第3四半期の21.2%から倍増している。
その一方で、かつて約50%に達していた不良債権比率(NPL)は、2025年9月時点で8.7%へ大幅に改善した。第3四半期末の不良債権残高は85億1000万バーツと、前年同期の124億バーツから31.5%減少している。 同銀行は、返済能力に応じた条件変更や早期介入型のリスク管理を通じ、約1万6000件、総額335億バーツの債務を再構築したことが改善の要因と説明する。
ピチット総裁は、タイの中小企業が2019年以降の景気減速と2020年のコロナ禍で大きな打撃を受け、その後も安価な輸入品の流入や国内競争、米国の関税措置などに苦しんできたと指摘。こうした環境下で中小企業向け金融を担う同銀行の役割は一段と重くなっている。
タイ政府は「Quick Big Win」や「Made in Thailand」キャンペーンを通じ、公共調達で国産品の利用を増やす方針を打ち出す。タイ英字紙「バンコク・ポスト」によれば、これらの政策に合わせてSME D銀行は「開発と資金供給をセットにしたパッケージ」を各地の展示会やマネーエキスポなどで展開し、デジタル化やグリーン投資に取り組む中小企業を重点的に支援している。
タイでは中小企業がGDPの3〜4割を占め、雇用の過半を支えている。政府と専門銀行による資金供給が滞れば、景気回復の足取りは鈍る可能性が高い。逆に、信用リスクを抑えつつ資金を十分に回せれば、地方経済や観光関連産業の底上げにつながる。SME D銀行の貸出拡大とNPL改善は、そのバランスが一定程度機能していることを示しているといえそうだ。
もっとも、安価な輸入品との競合や賃金上昇、金利環境の変化など、中小企業を取り巻く構造的な課題はなお多い。SME D銀行が「開発支援」と「資金供給」を一体で進められるかどうかが、タイ中小企業の再生力を測る試金石となる。
