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【商業】アジア観光戦争でタイ苦戦 外国客減と低単価克服が急務 競合各国は2桁成長続く

サイアム商業銀行のシンクタンクであるEconomic Intelligence Center(EIC)は、アジア各国が「観光戦争(Tourism War)」とも呼べる激しい競争に突入するなかで、タイの観光競争力が相対的に低下していると警鐘を鳴らした。世界経済の減速と不確実性の高まりを背景に、多くの国が観光を主要な成長エンジンと位置づけ、観光客誘致に積極的な政策を打ち出しているためだ。

EICによれば、観光戦争の主な舞台はタイ、日本、韓国、マレーシア、ベトナム、シンガポール、中国などであり、各国は2025年に前年比10%超の外国人観光客増を目標に掲げている。日本は2024年に約3690万人の訪日客を記録したあと、2025年は4000万人超を目指す。シンガポールやベトナム、マレーシアも2割超の伸びを狙う。

タイ政府は2025年の外国人客数目標を3900万人とし、観光収入2兆バーツ超を掲げてきたが、実績はこれを下回っており、2025年1〜9月の外国人入国者数は約2239万人で前年同期比7%減となった。中国人観光客は依然として最大の「お得意様」であるが、経済減速や安全性への懸念、地域内の競合先増加などを背景に落ち込んでいる。

こうした状況を踏まえ、財務省は2025年の外国人客見通しを当初の3850万人から3650万人へ下方修正し、国家経済社会開発評議会(NESDC)も別途、目標を3300万人に引き下げた。

EICは、観光戦争の激化によって各国の主要市場が大きく重なり合い、タイが狙うべき旅行者セグメントの争奪戦が一段と厳しくなっていると分析する。6カ国の主要観光競合市場では、上位10カ国の送客市場のうち18カ国が重複しており、とりわけベトナムやシンガポールはタイと似た市場構成で競合しているという。その一方で、タイは旅行1回当たり・1日当たりともに観光支出が競合国より低く、訪問者数が伸び悩むなかで単価向上という課題にも直面している。

EICは送客市場を3つのグループに分け、それぞれに応じた戦略が必要と提言する。第1は、マレーシア、インド、ロシア、英国、フィリピンなど、タイが依然リーダーでありつつ競争が激化している市場であり、サービス品質や新たな体験型商品を通じて、リピーター増と支出拡大を目指すべきとする。

第2は、日本、米国、豪州、カナダといった成長余地が大きいが、タイのシェアが限られている市場で、より集中的なプロモーションと「タイならでは」の売りを打ち出す必要がある。

第3は、中国、韓国、台湾、シンガポール、インドネシアなど、競争が激しく伸び悩む市場であり、国別キャンペーンや価格戦略を組み合わせた攻めのマーケティングが求められると分析する。

2019年に約4000万人の外国人客を受け入れたタイは、パンデミック後も東南アジア有数の観光大国であり続けているが、今後は「数」だけでなく「質」で競う局面に入った。安全・安心の確保、公平な価格設定、観光地の環境管理といった土台を固めたうえで、体験価値とブランド力を高められるかどうかが、アジア観光戦争を勝ち抜けるかどうかを左右することになる。

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