【経済】経団連代表団が訪タイ 日本企業側は再生可能エネルギーの安定供給体制求める
タイ投資委員会(BOI)のナリット事務局長は11月24日、エクニティ副首相兼財務相とともに、日本経済団体連合会(経団連)代表団のタイ訪問を歓迎した。訪タイしたのは経団連日タイ貿易経済委員会の石井敬太委員長、鈴木純委員長らをはじめとする約20人の経営者で、伊藤忠商事、帝人、住友グループ、三菱グループ、日本製鉄、丸紅、三井住友銀行、ANA、JALなど、日本を代表する企業が顔をそろえた。会合では、エネルギー政策から先端産業投資、人材育成に至るまで、タイと日本の経済連携を次の段階に引き上げる方策が議論された。
今回、メイン議題となったのは、クリーンエネルギーの供給体制。日本企業側は、世界的に進む脱炭素の中で、再生可能エネルギーを安定的に調達できるかどうかがタイ投資継続の前提になると指摘した。これに対しタイ政府は、今年中に導入予定の「ユーティリティ・グリーンタリフ(UGT)」と、発電事業者と需要家が直接再エネ電力をやり取りできる「ダイレクトPPA」の仕組みを説明し、再エネ比率の引き上げと電力料金の競争力確保に取り組む姿勢を強調した。
タイ側は同時に、半導体、先端エレクトロニクス、デジタル技術、バッテリーなど、次世代産業への投資拡大を日本企業に呼びかけた。タイ政府は経済閣僚会議で「Thailand FastPass」構想を承認し、データセンター、工業団地、クリーンエネルギー、電子部品といった分野で、BOIが認可済みでありながら停滞している80件・総額4800億バーツ超の大型案件を優先的に進める方針を示している。これは電力網の整備や工業用地の確保、ビザ・労働許可の迅速化などを、一括して解消する枠組みだ。
自動車産業は、議論のなかで特に取り上げられた。タイは東南アジア有数の自動車生産拠点であり、完成車と部品の両面で日本メーカーがサプライチェーンの中核を担ってきた。政府とBOIは、内燃機関車(ICE)メーカーや部品メーカーが、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)など新技術へ移行しやすくするため、既存のEV支援パッケージを柔軟に運用する考えを示した。車載電池やパワーエレクトロニクスなど、高付加価値部品の現地化も重視している。
人材面では、経団連側が「高度なデジタルスキルを持つ人材の確保」が共通の課題になっていると指摘したのに対し、タイ側はBOIが主導する能力開発ファンドを通じて、10万人規模の人材をアップスキル・リスキルする計画を説明した。政府は約50億バーツの基金を用意し、ターゲット産業に属する企業の研修費用や設備投資を3〜5割補助する枠組みを検討している。
タイ側は「日本は長年にわたりタイ工業化の基盤を築いてきた最重要パートナー」と繰り返し強調するが、今回の協議は、その関係をクリーンエネルギーと先端産業の時代にどう再設計するかを探る場ともなった。日本企業にとっては、脱炭素とサプライチェーン強靱化の両立を図るうえで、タイでどの分野にどのタイミングで投資を振り向けるか、戦略の再点検が求められている。
