【経済】タイ南部大洪水 政府系・民間金融機関が債務猶予・緊急融資で家計と地域経済を下支え
タイ南部で記録的な洪水被害が続くなか、金融セクターが一体となって被災地域の家計と企業を支えている。被害はソンクラ、パッタニなど少なくとも南部10県に及び、ソンクラ県ハートヤイ郡では1日で335ミリという観測史上最大級の豪雨を記録した。政府によれば、約190万~270万人が影響を受け、観光と商業の損失は1日当たり最大15億バーツに達するという。
政府は1世帯当たり9000バーツの現金給付など財政支援を打ち出したが、被害が長期化すれば返済負担の急増や倒産が連鎖するおそれがある。そこでタイ中央銀行は、被災者向け債務支援に関する特別指針を示し、銀行が返済条件を緩和しても融資の格付けや引当水準を原則維持できるようにした。従来であれば「条件変更=不良債権化」とみなされかねないケースでも、今回に限り金融システム安定を優先して柔軟な対応を認めた格好だ。
この枠組みのもと、政府系銀行はそれぞれの役割に応じた支援策を打ち出した。中小企業銀行(SMEバンク)は、中小企業の再建資金として最大20万バーツの緊急融資を用意し、金利を抑えたリスケジュールを併用する。農業・農協銀行(BAAC)は農家向けに最大50万バーツの低利融資を拡充し、作物の再植え付けや設備修繕に充てられるようにした。政府住宅銀行は元利金の支払い猶予、返済期間延長、金利引き下げなどから成る7項目のパッケージを導入し、「住まいを守る」という本来の使命を前面に出す。政府貯蓄銀行は3カ月の元金支払い猶予と利息・手数料の一部免除に加え、最大5万バーツの緊急ローンを用意した。イスラム銀行はイスラム金融の原則に沿った支援プログラムを通じ、返済猶予と生活支援の双方を提供している。
民間大手も、こうした政府系金融機関の動きに歩調を合わせる。クルンタイ銀行は個人および中小企業の返済額を一時的に最大75%削減するメニューを提示し、金利優遇とセットで家計の資金繰りを下支えする。サイアム商業銀行(SCB)は顧客層を細かく区分し、住宅ローンや中小企業向けローンでは6~12カ月の利息のみの返済期間を設けるなど、ケースに応じた柔軟なリスケジュールを行う。TMBタナチャート銀行(TTB)は「タング・ラック(基盤づくり)」プログラムを通じて返済期間の長期化や据え置き期間の設定を行い、洪水直後のキャッシュフロー確保を優先する。輸出入銀行(EXIMバンク)は、被災した輸出企業やサプライヤー向けに運転資金枠の上乗せと債務条件の見直しを進めている。
タイ中央銀行は11月公表の報告書で、2025年7~9月期の商業銀行の利益が減少し貸出残高も伸び悩んでいる一方、自己資本比率や流動性は規制水準を大きく上回っており、災害時にも十分な耐久力があると強調。今回の洪水対応では、政府系銀行がセーフティネットとして最前線に立ち、民間銀行が幅広い顧客をカバーする「二重のエンジン」が機能していると専門家は指摘する。
