【食品】ハラールの世界市場規模は1.36兆ドル タイはASEANの輸出ハブ目指し新成長戦略

世界のハラール(イスラム法において合法とされる食品・商品・行為)市場が急拡大するなか、タイは自国の強みである食品、観光、健康関連産業をテコに「新しい成長エンジン」としてのハラール経済に照準を合わせている。バンコクで開かれた経済セミナー「Thailand’s New Prospect」で、工業省工業経済局(OIE)のスパキット局長は、2023年の世界ハラール市場規模は1.36兆ドルに達し、このうちハラール商品が5460億ドル、サービスが8150億ドルを占めると報告した。商品ではハラール食品が全体の43%を占め約2000億ドル、また、化学製品が26%、医薬品が11%を占める。一方、サービス分野では観光、輸送、ビジネスサービスが中心で、それぞれが2〜3割前後を占めている。
しかし、この巨大市場に対するタイのプレゼンスはまだ低い。同局によると、タイのハラール商品輸出は88.5億ドルと、世界のハラール商品市場(5460億ドル)のわずか1.6%に過ぎない。輸出構成の約67%は加工食品で約60億ドル、次いで化学製品が20%前後、約17.5億ドルとなる。タイは農産物の加工、鶏肉などの畜産物、ハーブ・医薬品、化粧品、衣料・ファッションといった5分野で強みを持つが、世界市場の伸び(年6〜8%)に対し、タイのハラール輸出は年4.2%程度と出遅れている。
スパキット局長は、ハラールがもはや食品だけでなく、医薬品や化粧品、医療機器、サプリメント、ペットフード、包装材、観光、物流まで広がる「包括的なエコシステム」であると指摘。世界のイスラム経済全体をみると、ムスリム消費は2022年時点で2.29兆ドルに達しており、今後も増加が見込まれる。輸出上位国は中国、米国、インド、ドイツ、ブラジルなど非イスラム国が占めており、輸入側はトルコ、サウジアラビア、インドネシア、UAE、マレーシアなどOIC加盟国が中心となる。
工業経済局(OIE)は2024〜2028年の5カ年「ハラール産業開発計画」を策定し、ハラール規格を国際水準に引き上げるとともに、生産・物流インフラの整備、専用工業団地「ハラール・インダストリアル・エステート」の構想を進める。第1フェーズでは、①世界市場での認知度向上を図る需要側での施策、②低炭素生産や再エネ利用を組み込んだ供給側の品質向上、③サプライチェーン全体を結ぶエコシステム構築―の3本柱を骨子とする。中小企業支援機関である中小企業振興庁(OSMEP)は、事業者がハラール認証手続きや市場情報に容易にアクセスできるよう、「ハラール・ワンストップサービス」の整備を提唱。多くの中小企業はハラール認証を「手続きが複雑で費用も高い」と敬遠しており、この障壁を下げることが市場拡大の鍵になるとの見方である。
一方、中小企業開発銀行は、ハラールSME向けに3本柱の支援策を掲げている。第1に専用融資などによる資金供給、第2にDXプラットフォームや研修を通じた経営能力の底上げ、第3に出資によるリスク分担である。また、「ハラール経済統合センター」を設立し、政策調整や支援策を一元管理する構想も打ち出された。
タイのハラール認証は、1949年から続く中央イスラム委員会が運営しており、「The Central Islamic Council of Thailand」のロゴはタイ唯一の公式ハラールマークとして世界的に認知されている。同委員会の幹部は「このロゴはイスラム圏だけでなく、非イスラム諸国でも信頼されており、タイのハラール製品は多くの市場で受け入れられている」と語る。
イスラム銀行のトップは「世界人口の約4分の1がムスリムであり、その多くが若年層であることを踏まえれば、ハラール経済には長期的な成長ポテンシャルがある」と指摘。タイが「ムスリムフレンドリー国家」として観光や金融、ライフスタイル分野を含めたハラールエコノミーを戦略的に育てることができれば、GDPを押し上げる新たなエンジンになり得る。政府と民間が歩調を合わせ、輸出の年平均成長率10%超と、ASEANにおけるハラールハブの地位を目指せるかが今後の焦点となる。
