【環境】気候リスク指数でタイ17位と悪化 ハートヤイ大洪水踏まえ政府が気候変動適応策を本格化

ドイツの環境NGO「Germanwatch」が公表した最新の気候リスク指数(Climate Risk Index, CRI)で、タイは気象に対するリスクが高い国の第17位に浮上した。前回指数の72位から大きく順位を上げており、タイ気候変動・環境局(DCCE)は、早期警報システムの高度化やレジリエンス強化の枠組みづくりを加速させる方針を示した。
DCCEのフィルン局長は、2026年版指数の内容を説明し、短期リスク指標ではタイの順位が2022年の72位から2024年には17位まで上昇したほか、長期リスク指標でも30位から22位へ悪化したと述べた。1995〜2024年の国際データに基づくCRIによれば、この期間に発生した深刻な気象現象は世界で9700件超に達し、約57億人が影響を受け、死者は83万2000人以上、経済損失は4.5兆米ドルを上回る。熱波と暴風雨が死亡原因の66%を占め、洪水は被災人口の48%に影響し、損失額では暴風雨が58%(約2.64兆米ドル)を占めたという。
2024年に最も被害を受けた国としては、セントビンセント及びグレナディーン諸島、グレナダ、チャド、パプアニューギニア、ニジェール、ネパール、フィリピン、マラウイ、ミャンマー、ベトナムの10カ国が挙げられた。フィルン局長は、1日で350ミリという「過去300年で最大」とされる降雨を観測したハートヤイの洪水を例示し、降雨パターンの変化が突然の気候危機を引き起こしていると警鐘を鳴らす。
タイ政府は環境政策の柱として、気候変動への適応を国家課題に位置づけている。DCCEは現在、国家適応計画(National Adaptation Plan)の実行を加速させており、水資源、農業、保健、インフラ、都市・土地利用、生態系の6分野を中心に、地方自治体、企業、市民社会との連携を強化。具体的には、災害警報ネットワークの整備、水管理インフラの強化、熱波や洪水に備えた医療・農業対策、自然を活用した防災策(ネイチャーベースド・ソリューション)の推進などが挙げられている。
政府はさらに、被害データやリスク情報を集約するデータベースの整備、支援金アクセスの改善、衛星データなどを活用したモニタリング技術の高度化にも取り組んでいる。タイ独自の気候リスク指数を開発し、県レベルの都市計画や投資判断に活用する構想も進行中だ。こうした取り組みを制度面から支えるため、温室効果ガス排出量の報告義務や気候関連投資への資金支援などを盛り込んだ気候変動法案(Climate Change Act)の整備も進められている。
国際的な長期目標として、タイは2050年までのカーボンニュートラルと2065年までの温室効果ガス実質ゼロを掲げている。これらの目標は、2022年に国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)に提出された長期低排出開発戦略(LT-LEDS)や更新NDC(各国決定貢献)に明記されており、政府はエネルギー転換や交通部門の電動化、森林吸収源の拡大などを通じて達成を目指す構えだ。
バンコクでは、チャチャート都知事がハートヤイでの豪雨被害を踏まえ、最悪の場合7日間で1100ミリの降雨を想定した排水計画や避難計画の検証を指示した。都市部の浸水リスクが高まるなか、都庁は排水トンネルや貯水池整備とあわせて、リアルタイム雨量情報を活用した避難情報の発信強化を急ぐ。タイ経済は洪水や干ばつに繰り返し見舞われており、製造業や観光業にとって気候リスク管理は重要な経営課題。CRIの順位悪化は、その現実を改めて浮き彫りにしたと言える。
