【運輸】バンコク〜ハートヤイ便高騰でも平均運賃は低下 LCCの国内シフトで供給過多鮮明に

タイ南部の洪水被害を背景に、バンコク〜ハートヤイ便の片道航空運賃が1万バーツ近くに達したとするSNS上の書き込みが広がり、国内線運賃の高騰が批判を浴びている。しかし、民間航空局(CAAT)の調査および航空会社の決算データを見ると、2025年の平均国内線運賃はむしろ低下傾向にあり、問題の核心は「一部区間での需給ギャップ」と「LCC各社の路線シフト」にあることが浮かび上がる。
CAATは、バンコク〜ハートヤイ路線について、格安航空会社の上限運賃を片道7266バーツ、フルサービス航空会社の上限を1万049バーツと規定しており、航空各社はこの枠内でダイナミックプライシングを行っていると説明する。洪水による需要急増時に高値の運賃が販売されたケースはあるものの、上限を超えた販売は確認されていないと強調した。
一方で、バンコク・エアウェイズのプティポン社長によれば、同社の平均運賃は2025年第3四半期に4115.3バーツと前年同期比2.2%低下し、1〜9月期の平均でも4178.9バーツと1.1%の下落となった。サムイ島路線を除く国内線では、LCC各社との競争激化により値下げが進み、収益性を示す「イールド(単位収入)」が大きく落ち込んだという。また、1〜9月期の同社売上高は前年同期比0.1%減の199億バーツに止まった。この背景には運賃収入が2.9%減少したことがある。なお、営業面では、プノンペン線を1日3便から1便に減便するなど、需要に応じた国内外路線の見直しも進めている。
格安航空各社の価格攻勢も顕著だ。タイ・エアアジアの平均運賃は第3四半期に1633バーツと前年同期比12%減少した。外国人需要の弱さが国際線だけでなく国内線にも響いた。
ノックエアは国内線シェア25%を維持する一方、最大手のタイ・エアアジア(シェア37%)との競争が激しく、さらに他のLCCが中国路線から撤退・減便したことで、国内線に機材が大量に流入し、供給過多と運賃下落に拍車をかけた。ノックエアの平均国内運賃は年初来で1300バーツにとどまる。
ノックエア前CEOのウィッティプム氏は、多くの航空会社が中国路線で十分な搭乗率を確保できず、コロナ禍前に発注した新造機の受領も重なった結果、余剰機材を国内線に回さざるを得なかったと説明する。ノックエアは国際線をすべて停止。また、タイ・ライオンエアも中国路線を35路線から10路線まで大幅削減している。
世界的にも2025年の航空運賃はおおむね5%程度下落したとされ、国内線運賃の低下はタイに限った現象ではない。 他方で、南部の洪水など非常時には、限られた座席に需要が集中し、価格が一時的に急騰する。タイのピパット運輸相は、洪水期のバンコク〜ハートヤイ便について、7社の国内航空会社に増便や価格是正策を求めた上で、CAATと連携し価格の透明性を高めるよう指示している。
国内線運賃を巡る議論は、単純な「高い・安い」の二項対立ではなく、路線ごとの需給バランス、LCCの戦略転換、災害時の社会的責任など複数の要素が絡み合う。ハートヤイ路線の高値批判は、上限制度そのものの妥当性や、災害時における公共性と採算性のバランスを見直す契機にもなった。航空各社にとっては、供給過多による価格競争と、社会的な公平性への期待との間で、難しい舵取りが続きそうだ。
