【車両】現代自動車がサムットプラカン県でBEV生産 26年以降5000台体制で輸出拠点化狙う
タイの電気自動車(BEV)産業が本格的な成長期を迎える中、韓国ヒョンデ(現代自動車)グループがタイでの生産投資を加速している。子会社のヒョンデ・モビリティ・タイランド(HMT)は、バンコクの隣県サムットプラカン県にBEV組立工場を建設中で、2026年から年5000台規模の量産を始める計画だ。
新工場は車両組立ラインとバッテリー組立ラインを一体で備えるのが特徴。敷地面積は約2万8500平方メートル、そのうち1万7500平方メートルを建屋が占める。バッテリー工場は26年4月の完成を予定しており、車両との一貫生産体制を整えることで、部品調達コストの圧縮と品質管理の強化を図る。投資総額は10億バーツに達し、タイ投資委員会(BOI)は税控除などEV3.5パッケージに基づく優遇措置を付与した。
ヒョンデは、同工場で生産するBEVとバッテリーパックを国内市場向けだけでなく、東南アジアやオセアニアへの輸出にも振り向ける方針で、タイを電動車の地域輸出拠点と位置づける。タイ工業連盟(FTI)によれば、25年のBEV生産台数は1〜10月累計で前年比4倍超に拡大し、国内自動車生産の約4%を占めるまでになった。 バッテリーの現地調達が進めば、さらなるコスト競争力の向上が期待される。
一方で、足元のタイ国内自動車市場は逆風が強い。HMTのウォロップ・チャレームウォンサウェート社長は、25年の国内新車販売を60万台と予測し、26年には70万台まで伸びると見込むものの、家計債務の重さと銀行による厳格な与信審査が足かせになっていると指摘。HMTの25年販売台数は2300台程度と目標を35%下回る見通しで、内需だけに頼る戦略には限界があるという。
同氏はまた、タイの輸入関税制度がBEV市場の公平な競争を妨げていると訴える。座席数10席以下の多目的車の関税率は80%、11席以上でも32%と高水準である一方、中国からの輸入車は自由貿易協定(FTA)により実質的に関税免除の恩恵を受けているためである。 「このままでは多くのブランドが競争できない」とし、関税の見直しや投資インセンティブの拡充など、より中立的な政策を政府に求めた。
それでもヒョンデはタイ市場を中長期的な成長機会と捉えている。HMTのチェ・ジェギュ社長は、BEVに加えハイブリッド車や内燃機関車も含め、タイの消費者ニーズに合わせた車種ラインアップを順次投入していく考えを示す。
クルンシー・リサーチは、24年から‘26年にかけてタイのEV市場は補助金継続とエコ政策を背景に拡大を続け、乗用BEVの新規登録台数は年19万台規模に達するとの見通しを示している。
内需停滞および輸入車との激しい価格競争という「逆風」、そして輸出拠点化とサプライチェーン高度化という「追い風」。ヒョンデの投資は、タイがEV3.0/3.5政策のもとで、どこまで電動車の地域ハブとしての地位を高められるかを占う試金石にもなりそうだ。
