【IT】タイ政府のAI推進、業者選定や16億バーツ巨額予算で有識者が警鐘

タイのデジタル経済社会省(MDES)が主導するAI基盤整備事業「TH-AI パスポート」を巡り、民間や有識者から批判と疑問の声が相次いでいる。論点の一つは、16億2100万バーツに上る予算規模の妥当性。もう一つは、既存の無料AIツールではなく特定の共同事業体(コンソーシアム、consortium)を介してサービスを調達する手法だ。
MDES事務次官らは2026年6月、契約締結後の仕様変更はできないとしつつ、支出は成果報酬型であり不正はないと釈明。ただ、国家主導のデジタル戦略は、不透明な予算執行や実効性の低さという課題を抱えており、現地のビジネス環境や政策の先行きを注視する日系企業にとっても、見過ごせない動きとなっている。
このなか、MDESが推進する人工知能(AI)利用権の調達・普及事業「TH-AI パスポート」の不透明さが表面化し、早くも¥官民の間で激しい議論を呼んでいる。同事業は、国家のデジタル競争力を高める目的で、16億2100万バーツという巨額の予算を投じる計画であるが、議会やIT業界からは、まずこの予算規模の妥当性に対して強い批判が出ている。民間企業が提供する既存の無料AIサービスで代替できなかったのか、という疑問も根強い。
特に批判が集中するのは、特定の仲介業者を経由した調達プロセスの不自然さだ。今回の入札を落札したのは「TH共同事業体」であるが、これは、通信インフラ大手ターンキー・コミュニケーション・サービスと、AI開発スタートアップのヒューマン・インテリジェンスが、この事業のために急遽結成した共同事業体だ。一部の専門家からは、政府がプラットフォーム(platform)の提供元と直接契約を結ばず地場企業を仲介に挟んだことで、中間マージンがコストの高止まりを招いているのではないかとの指摘が相次いだ。
一方、これらの指摘・批判に対しMDESのポチャラ事務次官は、調達資金が一般会計ではなく国家デジタル経済社会開発基金から拠出されている点を強調。予算執行の全工程で政府調達法を完全に順守しており、首相や副首相が議長を務める基金委員会など複数の専門審査会が厳格に審査して承認したため、手続きに違法性はないと主張した。
共同事業体を構成するヒューマン・インテリジェンスのパカワン取締役も、成果物の納品と検査を5段階のフェーズ(phase)に分けていると説明。仕様書(Terms of Reference、TOR)に基づき、同社は現時点で政府から1バーツも支払いを受けていないという。実際の利用実績が想定を下回れば、政府は満額を支払わない仕組みであることも明らかにした。事業は既に契約履行の段階に入っており、TORの改定や事業の撤回は法的にできない。ただ、運用の詳細な枠組みの中で軌道修正を図る姿勢を示した。
このほか、具体的な成果の測定方法や、利用者数が想定を下回った場合の対応など、運用面の不透明さは残る。今回、タイ政府が進めるAI国家戦略全体には、実務上の成果に結びつかないまま予算が消化される「ハコモノ行政」(看板だけで実効性に乏しい公共事業)に陥るリスクがある。
