スワンナプーム空港でタイ航空の預け荷物が大量滞留、洪水で地上要員が不足か
バンコク東郊のスワンナプーム空港で、タイ航空が扱う預け荷物が大量に取り残される事態が起きた。対象となっているのは9月26日と27日に到着した52便分の荷物。9月29日朝の時点でも、旅客ターミナル2階には数千個とみられるスーツケースが並べられている。現地報道によると、並べられているのは一部にすぎず、奥の手荷物ベルト周辺は置き場がなくなるほど荷物があふれていたという。
荷物を受け取れなかった乗客の状況はさまざまだ。バンコクに到着したものの荷物を持ち出せず、いつ戻るかもわからないまま空港で待ち続けた人がいる一方で、荷物を積み残されたまま国内の地方都市や海外の目的地へ向かった人もいた。
9月28日午後8時ごろには、タイの人気SNSページ「Drama-addict」が空港内に積み上がった荷物の写真を公開し、混乱の大きさが広く知られることになった。同ページに寄せられた乗客の声では、荷物の中に常用薬が入っている人、毎日空港に通っている人、24時間以上空港から出られていない人もいると訴えている。
洪水で地上スタッフが出勤できず
直接の原因は、バンコクと周辺県を襲った洪水だ。9月24日から27日にかけて大雨が続き、一部の地域では雨量が300ミリを超えた。バンコク都は9月26日、48時間続いた豪雨を受けて都内全50区を災害地域に指定している。
この洪水で、タイ航空の地上業務(グランドハンドリング)を担うスタッフの一部が自宅の浸水などで出勤できなくなった。グランドハンドリングとは、航空機への荷物の積み下ろしや、荷物の仕分け・運搬など、空港の地上で行う作業全般を指す。荷物を扱うこの業務は専門の技能が必要なため、簡単に代わりの人を充てることができない。
タイ航空のチャイ・エアムシリ最高経営責任者(CEO)は、会社の車でスタッフを自宅まで迎えに行ったものの、家を心配して出勤できない人もいたと説明した。人手が足りない状態が続いたことで、荷物や貨物が雪だるま式に積み上がったという。さらに、荷物を運ぶ車両の一部が故障したことも重なった。
なぜタイ航空だけが混乱したのか
洪水の影響は他の航空会社にも及んだはずなのに、なぜタイ航空だけが大きく混乱したのか。こうした批判に対し、チャイCEOは、同社がバンコクを主要拠点とし便数が多いことに加え、自社便だけでなく、顧客である他の航空会社の地上業務も請け負っている点を挙げた。顧客の航空会社でも荷物の滞留は起きたが、タイ航空ほどではなく、危機の際に自社分と顧客分を同時に抱えたため影響が最大になったという。
空港を運営するタイ空港公社(AOT)によると、スワンナプーム空港には複数の地上業務会社があり、タイ航空以外の会社は通常通り業務を続けていた。影響を受けたのは、タイ航空に地上業務を委託している航空会社に限られたとのことだ。
他社優先の疑惑を当局も問題視
混乱の中で浮上したのが、タイ航空が自社の乗客よりも、地上業務を請け負う他社の荷物を先に処理していたのではないかという疑惑である。他社との契約では、遅れが出た場合に高額の違約金を払う条件が定められているため、それを避けようとしたのではないかとの見方だ。ただ、タイ航空が実際にそのような順番で作業していたかどうかは確認できていない。
運輸省のシリポン・アンカサクン副大臣は、タイ航空の取締役会を緊急に開いて解決の手順を決めるよう求めたうえで、タイ空軍やタイ郵便の支援を調整したと述べた。同副大臣も、他社とのサービス契約を優先した可能性に懸念を示している。乗客への補償については、タイ航空が直接責任を負うとしている。運輸省はまた、AOTがタイ航空に対する処分や罰金の徴収を検討していることも明らかにした。
欠航と遅延は欧州やアジア路線にも
影響は荷物にとどまらない。タイ航空は9月28日だけで34便の遅延を出した。報道によると、フランクフルト、成田、パリ(シャルル・ド・ゴール)など世界の主要空港でも、事前の案内がないまま出発が延期され、同社の乗客が足止めされたという。
このなか、同社は9月29日と30日の一部路線の欠航を発表。対象は次の通りだ。
・9月29日:バンコク〜ウドンタニ(TG008/TG009)、ニューデリー(TG315/TG316)、シンガポール(TG407/TG408)、クアラルンプール(TG415/TG416)、フランクフルト(TG922/TG923)
・9月30日:バンコク〜ミュンヘン(TG924/TG925)、ブリュッセル(TG934/TG935)
タイ公共放送によると、9月29日にはさらにコンケン、プーケット、ハノイ、シンガポール(TG403/TG404)の各路線で計8便の追加欠航も決まった。発表された欠航の中に日本路線は含まれていないが、同社は業務がいつ平常に戻るかを示していない。
チャイCEOは、対応しきれないと判断した便は前もって統合または欠航とし、乗客を他の航空会社へ振り替える方針を示す。顧客の航空会社については、AOTを通じて地上業務の一部を他の事業者に移す調整を進めている。
タイ航空への不満が乗客から噴出
乗客の不満が最も集まったのは、情報がほとんど伝えられなかったことだ
中国・上海から午前0時20分ごろに到着した女性は、荷物の受取所に着いても係員からの説明は一切なかったと話した。乗客たちは2時間以上もあてもなく待ち続け、ようやく旅行者同士の情報で「3〜5時間待つか、手続きをして後日取りに来るか」の2択だと知ったという。遺失物窓口では自宅への配送は勧められず、翌日に取りに来るよう言われた。女性は一度帰宅してシャワーを浴び、翌朝再び並び直すことになった。
韓国から戻った別の女性も、最初は「2〜4時間待ち」と言われて用紙に記入したが、配送を頼むと「洪水のため今は送れない」と断られ、いつ届くかも知らされなかった。9月28日午後11時に記者が現地を訪れた時点でも、大量の荷物が残されていた。乗客たちは、係員ごとに答えが違うため旅行や仕事の予定が立てられないと訴え、中には荷物に薬や着替えを入れたままの人や、乗り継ぎ便を控えた外国人もいた。5〜6時間待たされた人や、日をまたいで待った人もいるという。
X(旧ツイッター)には、日本人旅行者を名乗る利用者が、人手が足りないのになぜ運航を続けるのかと疑問を投げかけた。台風の際に日本や中国の航空会社が欠航を決めるように、遅延を重ねるよりも欠航の方が乗客は理解しやすいという指摘である。
チャイCEOは、荷物を機体から運ぶ人手が足りず、いつ荷物が出てくるかを正確に伝えられなかったと釈明した。そのうえで、空港で待たずにQRコードで配送先を登録する方式に切り替えたと説明している。ただし、タイ人の乗客は自宅で待てるが、滞在期間の限られた外国人の乗客はより深刻な影響を受けていると認めた。
業績を立て直しの途上で問われるずさんな対応
タイ航空は経営破綻からの再建を経て、業績を立て直してきたばかりである。9月には英国の航空格付け会社スカイトラックスの2026年ランキングで世界20位に選ばれ、サービスの質で評価を高めていた。
チャイCEOは「言い訳はしない。事実を認め、全力で解決にあたる」と述べ、乗客に心から謝罪した。一方で、乗客の間では、同社には危機管理の仕組みがなく、乗客自身が空港の管理部門に掛け合ってようやく案内が出たとの批判もある。
洪水という天災が引き金だったとはいえ、情報の伝え方や便の減らし方など、危機時の判断には課題が残った。1社の人手不足が、その会社に地上業務を任せていた他の航空会社にまで広がった点も見逃せない。荷物の返却がいつ完了し、再発防止策がどう示されるのか。タイを訪れる日本人にとっても、注視すべき局面が続く。
荷物の受け取り方と問い合わせ先
タイ航空は、タイ郵便から人員と車両の提供を受け、本社の社員もボランティアとしてターミナルの荷物受取所や機内食工場に投入。軍にもスタッフ送迎用の大型トラックの支援を求めている。チャイCEOは9月29日中の事態収拾を見込んでいるが、不透明感が漂う。
荷物の受け取り方法は2つある。1つ目は空港で直接受け取る方法だ。9月29日の発表では、窓口は2階の国内線出口前にある手荷物サービス事務所で、受付は午前6時30分から午後11時30分まで(電話02-134-5373〜74)となっている。前日の案内では、パスポート、搭乗券、バゲージタグ(荷物を預けた際に渡される番号札)を持参するよう求めていた。
2つ目は配送を頼む方法である。QRコードを読み取り、氏名、便名、搭乗日、バゲージタグの番号、配送先住所、電話番号、メールアドレスを登録すると、確認メールで照会番号が届く。係員が電話(つながらない場合はメール)で内容を確かめたうえで配送する仕組みだ。
登録していない場合や照会番号のメールが届かない場合は、国内線が02-134-5373〜74、国際線が02-134-5466〜68に問い合わせる。欠航便については、24時間対応のコンタクトセンター(+66 2 356 1111)かメール(contact@thaiairways.com)で受け付けている。
