「官民連携」でスマートシティ実現なるか タイ・ASCNサミットに見る展望
タイ・バンコクは2019年6月6-7日、ASEAN議長国としてASEAN Smart City Network(以下、ASCN)加盟国を誘致しワークショップを開催した。同年8月22日にはバンコクでASCNの年次会合が控えている。
ASCNは2018年に行われた第32回シンガポールASEANサミットで「ASEANのスマートシティを実現するための枠組み」として提唱されたもので、2018年時点26都市が「実証都市」として参加している。
これまで製造業、観光業で着実に力をつけてきたASEAN各国であるが、今後最新テクノロジーを活用し環境問題や交通問題等を解決することを目標としている。ASCNでは毎年の会合でその具体的なアクションプラン進捗報告を行う。タイ・バンコクは現在、「スマートシティ実現(Smart City Plan)」「バーンスー地域の交通ハブ化(Transport Hub Development at Bang Sue Area)」の二つを重点施策に掲げている。
近年バンコクにおいては一層の都市化が進み、インフラストラクチャー、公益事業、公共サービスの需要が高まっている。都市化に伴い交通渋滞やごみ収集・処理などの課題が目立っており、最新テクノロジーによる問題解決に大きな期待がされている。
「スマートシティ」という観点では世界の先行事例にならうべき点も多い。スペイン・バルセロナではCiscoと協働してIoTセンサー解析によるスマートパーキング、ごみ収集・処理のデータ化、効率化を行っている。
また、デンマーク・コペンハーゲンでは大学、民間企業、約80団体の研究機関が参加して交通渋滞緩和、環境保全の取り組みを都市レベルで進めている。具体的には、Wi-fi位置情報データ分析し交通渋滞と二酸化炭素排出量を削減する「CITS」、街灯に温度、大気汚染センサーを搭載したデータ取得の取り組み「DOLL」など現実的なプロジェクトが進む。
これからの例からも分かるように、「スマートシティ」という大規模な改革においては、政府は民間企業との結びつきを強める必要がある。最新のテクノロジーを享受するという観点でも官民連携は必須だ。
例えば、タイの製造民間企業においてもこれまで工場自動化のためのIoT技術、ロボットケーブルといったテクノロジー活用など独自で進めてきたところが多いが、物流改革やスマートな電力供給といった大規模のインフラ開発では政府との協働を欠かすことはできない。
バンコク市の行政部門であるバンコク首都圏庁(BMA)は都市課題に対して、現実的な企画基準と開発管理の措置を盛り込んだうえで、民間企業と連携する「官民連携」(PPP)を採用している。2019年実施された首都圏鉄道グリーンライン(BTSスクンビット線)入札もPPP方式をとるなど持続可能なインフラ開発には官民の密接なコミュニケーションが不可欠という考えを明らかにしている。
ASCNによって政府がアクションプランを明確化することは、民間企業、団体へのメッセージにもなる。スマートシティ実現のために、政府は民間から知見と技術を「いただく」立場にあるのだ。
ASCNの今後の展開、そしてタイをはじめとしたASEAN諸国のアクションプランの実現からは今後も目が離せない。
参考:
ジェトロ「ビジネス短信」添付資料 【2018 年ジェトロ・シンガポール事務所抄訳】ASEAN スマートシティ・ネットワーク草案(コンセプトノート)(2018年)
シスコシステムズ合同会社「スマートシティの事例」2016年
株式会社野村総合研空所「ICTを活用したスマートシティの事例等に関する調査の請負 海外事例調査」(2016年)