タイニッパツ カーボンニュートラル対応を積極推進 地元⼩学⽣に環境教育
2021年10月31日から11月13日まで英国で開催された国連気候変動枠組条約第26 回締約国会議(COP26)ではカーボンニュートラル(CN)に向けた各国の長期目標などが発表され、タイのプラユット首相(当時)はここで「2050 年カーボンニュートラル」を表明した。タイは21年8月、CN 達成期限を2065~70年と発表していたが、COP26でこれを2050年に前倒しした。エネルギーの60%を輸入しているタイはCN実現のため、2030年までに太陽光・バイオマス・大規模水力・風力など再生可能エネルギーの利用率を30%に高めるとの目標も設定。発電については太陽光など再生可能エネルギーによるものを少なくとも50%まで引き上げる方針だ。
在タイ日系企業のCN対応に温度差も
CNに対する在タイ日系企業の対応であるが、バンコク日本人商工会議所(JCC)が1971年以来、会員企業を対象に年2回行っている「日系企業景気動向調査」(2023年1月31日発表)によれば、CNに関する現地企業の方針として、「本社の指示、取引先からの要請などに基づき、方針を検討することになると見込まれる」が40%で最多。以下、「現段階では何も決まっていない」(32%)、「具体的な方針が決まっている」(19%)となった。カーボンニュートラルに対する企業の認識(複数回答)では、「その時点での環境法規制の水準に応じて削減する」が36%で最多。これに、「日常の事業活動の範囲内でできる程度に削減する」(33%)、「取り引き先から求められる水準に応じて削減する」(24%)と続くが、8%の企業は「特に取り組む必要を感じない」と回答している。カーボンニュートラル実現に向けた企業の取り組み(複数回答)としては、「省エネ施設の更新や改修」が46%で最多。以下、「太陽光発電など再生可能エネルギーの導入」(37%)、「廃棄物の適正処理や減量、資源ごみリサイクルなど推進」(31%)となった。また、カーボンニュートラルを推進する上での企業の課題(複数回答)であるが、「コストを価格転嫁できない」(44%)、「取り組むための専門知識・人材・ノウハウが不足している」(41%)、「コストに見合う効果が望めない」(36%)が上位3 項目となっている。
「CN活動のけん引役を担い、タイ社会に貢献したい」
タイで事業を展開する日系企業の対応には温度差が見受けられるが、このなか、CN 対応を積極的に進めている企業のひとつが、大手自動車部品メーカー、ニッパツ(日本発条)の現地法人タイニッパツ(NHKスプリング・タイランド)だ。ニッパツの茅本隆司社長は2021年9月8日、①創立100周年に当たる2039年までにCNを達成すること(日本政府目標は2050年)②2030年までに二酸化炭素(CO2) 排出量を2013年度比で50%削減を目指すこと(同46%)―を全グループ従業員に向けて宣言した。
本社でのこの宣言を受けたタイニッパツの岡島創社長は「タイニッパツがグループのカーボンニュートラル活動の牽引役を担い、タイ社会に貢献したい」と強い意欲を示す。日タイ政府目標を上回るスピード対応の理由として岡島社長は、「近い将来、CNに消極的な企業の製品は顧客に敬遠される時代が来るだろう。CNへの対応は事業存続のため必要不可欠」と指摘。さらに、「CO2削減が自社の理念であることを全従業員に理解してもらい、時代の潮流に遅れないようにする」と強調する。
タイニッパツではCN 実現のための具体的アクションとして、石井慎一技術本部長が、従業員の環境意識を高め、正しい知識を伝えるため、「CN 道場」立ち上げを提案した。同社は従業員教育のため、2008年2月に5S、安全、品質、TPS(Total ProductionSystem)、TPM(Total Productive Maintenance)の5 道場(実践的な研修・教育を行う場)を開設。その後、2019年3月の研修施設拡張に伴い、IFC(Initial Flow Control)、COSTの2 道場が追加された。2022年10月に新設された「CN道場」は8つ目の道場となる。CN道場は全8道場の中で最重要の位置付けとなり、各道場での研修に先立つ受講が求められることになった。コロナ禍での集会自粛で研修ペースは減速したが、それでも23年2月までにタイ国内で勤務する従業員の4 割がCN道場に参加。同年末までに全従業員約3500 人がCN 道場の門を叩くことになるという。さらに、タイだけでなく、カンボジア、マレーシア、インドネシア、インド、フィリピンのグループ工場従業員もCN道場での研修対象者となる。そのための宿泊施設はすでに自社内に用意している。石井氏は「CN道場の開設はタイ国内の企業で初めてだと思う」と話す。
「タイ人小学生の環境意識を高めてもらおう」
一方、岡島社長はCN道場立ち上げに際し、「地域社会に対する貢献として、タイの将来を担う宝である小学生にも参加してもらい、環境意識を高めてもらおう」と提案。今年2 月3日と10日、子供向けCN道場が開催され、地元バンポー地区のワットサナムチャン学校に通う小学生100人が参加した。当日、プラスチック製飲料ボトルが分解されるまでには450年かかることを説明すると小学生は驚き、ここでゴミ分別の大切さに言及。さらに、ゴミを減らすため、紙の両面を使用するなど、リユースを呼び掛けた。このほか、リサイクルコーナーでは、危険ゴミ・一般ゴミ・産業ゴミ・リサイクルゴミの4つのゴミ箱を自社で製造。ペットボトルなど各種ゴミの絵が描いてあるカードをこのゴミ箱に入れると、正解は拍手、不正解はブザーがなる仕組みであり、子どもたちは楽しんでゴミの分別を学んでいた。岡島社長によれば、「子供向けCN道場は今後も継続していく」とのことだ。
タイニッパツはCN 対策として、工場内全電球のLED化を昨年実現。さらに、タイで操業するサムットプラカン県、チャチュンサオ県、ラヨーン県の全6工場に太陽光設備設置している。発電能力(出力容量)は現状5.2MWであり、6.9MWに引き上げる。年間CO2 削減量は6工場合計で4600 トンを見込む。CN 対応はコスト増を余儀なくされるが、岡島社長はこの点、「CNを含む社会貢献実現のためには、原価管理や交渉などをきちんと行い、業績を伸ばすことが不可欠」との考えを示す。
ところで、日本の有力経済誌「週刊東洋経済」では、社会貢献は信頼される企業の条件として「CSR企業ランキング」を発表しているが、タイニッパツはCSR活動にも熱心だ。マングローブ植樹、小学校訪問・寄付、地域社会の清掃活動のほか、ロボットコンテストへの協賛、大学生への奨学金授与を行っている。(倉林義仁記者)