タイのファミリービジネス 上場企業の75% でGDPの8割稼ぐ
日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所はサシン経営大学院日本センターと「タイのファミリービジネスと日本企業の連携の可能性」をテーマとするセミナーを共催した。タイで活動する日系企業約6000社のうち、約6割に当たる3425社にタイ資本が10%以上入っており、そのなかにはファミリービジネスを展開しているタイの同族企業がかなりの数含まれている。ただ、日本ではファミリービジネスという言葉自体なじみが薄い。
この点、サシン経営大学院教授兼日本センター長の藤岡資生氏は、ファミリービジネスは1980年頃まで遅れた経営形態としてみられており、身内びいきなど前近代的なネガティブイメージがあったが、長期的にみてファミリービジネスは一般ビジネスよりも業績がいいと指摘する。一般ビジネスが経済活動の状況を示す国内総生産(GDP)の増減にリンクする傾向が強いのに対し、ファミリービジネスは景気の影響が比較的少ないという。同族企業にとり最優先事項はビジネスを次世代に引き渡すことであるため、一定期間の利益の特大化ではなく、事業の承継・存続を第一に考えることが事業の安定性につながっていると藤岡氏は話す。
ファミリービジネスが産出する付加価値であるが、世界市場でGDPの70~ 90%、タイ市場に限定するGDPの80%に相当する(米国は64%)。また、ファミリービジネスを展開する企業が全体に占める割合は、世界市場75%、日本97%、タイ80%、米国62%。これを上場企業に限定すると、日本53%、タイ75%、米国21%となる。そのため、タイはファミリービジネスが経済に与えるインパクトが大きく、「時代遅れとみなすことはできない」と藤岡氏は強調する。
タイのファミリービジネスの特徴はルーツが中国にあることだ。1882年から1931年までに約300万人が中国からタイに移民。2020年代後半までに人口の12%がタイ国籍を持つ中華系市民(華人)となる。現在、タイで影響力のある同族企業グループは215であり、2010年はタイGDPの6割を産出した。なお、215のうち、15が王室系ファミリー、200が華人ファミリーとなっている。
1979年と30年後の2010年時点でのファミリービジネスの規模を比べてみると、バンコック銀行グループは22倍、CPグループは105倍、セントラルグループは81倍と高い成長率を示す。ちなみに、日本のトヨタ自動車を1960年と1990年で比較すると69倍になる。
一方、ファミリービジネスの課題であるが、❶家庭内問題❷企業成長に人材育成が間に合わない❸情報技術革新の遅れ❹事業承継プランの欠如・不備❺金融関連問題―などを挙げることができる。
また、ファミリービジネスは、「ファミリーが所有し経営する」「ファミリーが所有するが経営は専門家が行う」「ファミリーが経営するが所有はファミリー以外」の3パターンに分類される。家族・所有・経営の三つ巴のシステムであるため、近代的経営とは異なったフレームワークが要求される点も舵取りの難しいところだ。
藤岡氏はファミリービジネスの本質を、「駅伝のようなもので、全区間走り続けることはできず、襷をつなげること(次の世代に事業を手放すこと)が何より大切となる」と指摘。そのため、利益は目的ではなく結果であり、これは中国で受け入れられてきた経営理念という。ただ、43%のファミリービジネスは後継者計画がなく、3 世代目まで継続する割合は12%に過ぎない。さらに、4 世代続くファミリービジネスは3%程度とされるなど、事業継続は決して簡単ではないようだ。
こうしたタイのファミリービジネスを営む同族企業と協業する上で日本企業が留意すべき点として、バンコック銀行執行副頭取の小澤仁氏は、ヒトの懐に入り込むことの大切さを強調する。
タイ企業側からは、「日本人担当者がすぐに変わる」「遂行を促すが、何も情報くれない」との不満が聞かれるという。タイ社会では人脈構築が重要であり、個人的な食事、相手家族のケアなど相手のファミリーにとり得になることを提示・提供する努力を続けることがビジネスを円滑に進めていく上で大切であると小澤氏は訴えている。