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ジェトロ・バンコク設⽴70 周年   時代の要請に応じた支援活動を展開

今年70 周年を迎えた日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は9 月24 日、バンコク都内のホテルで「ジェトロ・バンコク70 周年フォーラム」を開催。200人を超える日タイ両国の政府・政府機関、経済界代表らが参加した。

フォーラムの冒頭、ジェトロ・バンコクの黒田淳一郎所長が過去70 年間の活動を振り返った。ジェトロ・バンコクの設立は1954 年10 月。総合リサイクル企業・日高洋行社の倉庫が最初のオフィスとなった。ジェトロは現在、55カ国に75 の拠点を持つが、バンコク事務所は2番目の海外事務所となる。当時の組織名は「日本貿易振興会」(以下、「ジェトロ」で統一)だった。

 そして1959 年、ジェトロが借り上げたバンコク都内チャルンクルン通りのビルに盤谷日本人商工会議所・タイ国日本人会の共同事務所が入居。

3 団体による在タイ日系企業支援体制が構築される。当時、タイの在留邦人は500 人程度、日系企業も数十社に過ぎなかった(現在、在留邦人7 万人強、日系企業約6000 社)。

ジェトロはその後、時代の要請に応じて活動の方向性を大きく変えていく。1950 年代、日本にとっての課題は、戦後の経済的自立に向けた経済成長と国際収支の改善だった。そのため、ジェトロは50 年代を通じて輸出振興に努める。この時期、日本からタイへの主な輸出品目は繊維製品であり、全輸出額の約4 割を占めた。続く1960 年代は、輸出振興の全盛期。この時期、ジェトロは国内外のネットワークを拡充する。日本の貿易は1965 年に黒字化したが、その後、対日輸入制限措置を採る国が出てきたことで、1970 年代は輸入促進の取り組みを開始した。

1980 年代はジェトロの機能強化が打ち出されたことから、輸入促進本部を設置して、輸入促進を本格化する。また、円高に伴い、日本企業の海外進出への対応も課題となったことで、ジェトロ機能が転機を迎えることになる。と同時に、日本のオーバープレゼンスが海外で問題となり始めたことから、投資受け入れ国との協調事業などもスタートした。80 年代はさらなる経済協力の一環として、産業育成支援が本格化。ジェトロはタイにおいて金属加工、プラスチック成型などの裾野産業を対象とした地場企業への技術指導を実施し、これにより対日輸出や日系企業への納品が実現した。

1990 年代には輸入促進がさらに大きな柱となる。続く2000年代は、タイを震源地として1997 年に起きたアジア通貨危機から経済回復を果たし、投資環境が改善したことを受け、タイ政府の要請に応えるかたちで、裾野産業を主対象とする投資環境調査ミッションを派遣した。2000 年代初めにはタイで一村一品運動が起きる。タクシン首相(当時)のイニシアチブの下、大分県で行われていた運動に倣い、タイ各地が独自の特産品を育てることで地域活性を目指す草の根の経済振興が行われた。ジェトロはこの運動に全面的に協力。専門家による有望商品の発掘、日本市場向け新商品の試作を助け、2002 年には東京でタイ一村一品展を開催し日本のバイヤーや商社にタイの商品を紹介した。その後、日本の大手デパートでの販売会なども行なわれるようになった。

2000 年代の通商政策は経済連携協定(FTA)が潮流となる。日本とタイの間では2007 年11 月に経済連携協定が発効。自動車産業の人材育成、日本でのタイ料理普及、タイ食品企業の食の安全向上に取り組む世界の台所プロジェクトなどへ支援がジェトロによる対タイ協力事業として盛り込まれた。

またこの時期、日本の貿易黒字が減少したため、輸入促進にかわる基幹事業として、対日投資促進がスタートする。2005年に日本の総人口が初めて減少するなか、対日直接投資を通じて日本の新技術や経営ノウハウを導入することは日本経済の成長力強化にも貢献するとして重視された。ジェトロが支援したタイからの投資例としては、2023 年開業のドゥシタニ京都ホテルがある。京都地域経済への貢献に加え、両国の文化・ホスピタリティが融合したラグジュアリーな空間を提供している。

ジェトロ・バンコクが現在取り組んでいる事業

現在、ジェトロ・バンコクが取り組んでいる主要事業は以下の通りだ。

⽇本企業のタイ投資促進

タイ経済成長の原動力の一つである外資誘致を促進することで、引き続きタイ経済に貢献していく。日本企業に投資先としてタイを選んでもらうには、ビジネス環境の整備が重要。そのため、盤谷日本人商工会議所(JCC)と協力して日系企業の課題や要望を集約しタイ政府や政府機関に提言している。さらに、タイの経済成長には第三国への輸出拡大が不可欠。そこで、ジェトロ・バンコクではASEAN 諸国、インド、バングラデシュなどの事務所と連携し、在タイ日系企業による第三国への販路開拓を支援している。ASEAN サプライチェーン構築支援を通じて地域全体の発展に貢献していく方針だ。

スタートアップ⽀援を通じたイノベーション創出

スタートアップの革新的技術を通じて、農業の生産性向上、少子高齢化にともなう労働人口減少、介護問題、気候災害対処などタイの抱える社会課題解決に貢献する。これは、国内外の業が足りない経営要素を保管しあうオープンイノベーション創出につながることにもなる。

⽇本産⾷品のタイへの輸出促進

昨年度から特にタイの地方で多くの日本産食品が使われるようになった。今後、地方でのPR 活動、商談会に力を入れていく。

アジアの脱炭素化に貢献

アジアの経済成長、エネルギー安全保障、脱炭素化の同時達成を目指すための枠組み「アジアゼロエミッション」の実施機関として情報提供やマッチングを実施。日本企業の脱炭素化技術を活かし、タイを初めとするアジアの脱炭素化に貢献していく。

研究部⾨「バンコク研究センター(BRC)」運営

「バンコク研究センター(BRC)」は1977 年、「バンコク連絡所」(前身)として開設された。98 年にジェトロとアジア経済研究所が統合された際、ジェトロ・バンコク内に移転。現在はアジア太平洋州にかかる様々な研究を行っている。

 一方、ジェトロ・バンコクの黒田所長は、フォーラムの席上、ジェトロ・バンコクが先頃締結した基本合意書(MOU)を以下の通り、報告した。

東部経済回廊事務局との覚書

EECO とは2018 年10 月に協力覚書を締結し、22 年1 月に更新している。今回、新たな協力範囲として、日本企業のもつ新たなテクノロジーの商品化支援、EEC の重点分野にそったスターアップの支援が盛り込まれた。

JAXA との覚書

国立研究開発法人・宇宙航空研究開発機構(JAXA)バンコク駐員事務所との間で新たな連携協定を締結。在タイ日系企業の進出支援、グリーン経済、宇宙経済の競争促進について、関連情報の公開およびイベントや商談機会の相互提供が合意された。

BOI との協⼒覚書

2021 年1 月に締結したタイ投資委員会(BOI)との協力覚書に新たな協力内容が加わった。具体的には、「日系スタートアップのタイでのビジネス拡大支援」「BOI の重点分野に沿った新たなビジネス創出」「日本企業の持つ新たなテクノロジーのタイでの商品化支援」であり、現在調整が進められている。

今後の⽇タイ経済関係とジェトロの向かうべき⽅向性

ジェトロ・バンコク70 周年フォーラムでは、タイにおける社会課題の解決に向けた日系企業による貢献の可能性のほか、タイにおける日本のプレゼンスが後退しているなか、今後の日タイ経済関係やジェトロの向かうべき方向性をテーマとするパネルディスカッションが行われた。

 「タイ商工会議所」のカリン・サラシン名誉会長は、1997 年のタイ通貨危機発生時、既存ローンのロールオーバーを容認することでタイを支援した日本側の対応に感謝。「真の友」と評した。また、日本の5S を始めとする高い品質へのこだわりを称賛したほか、自動車・エアコン・農機・エレクトロニクスの分野でタイにバリューチェーンを構築しており、特に自動車産業では約9 割の現地調達率を実現している点を評価した。

そのほか、タイには現在、大規模な日本人学校があるが、中学過程までで高校過程がない点を指摘。そのため、中学卒業後、進学のため日本に帰国する必要が出てくるとして、タイに日本の高校を設立する必要性を訴えるとともに、タイ商工会議所としサポートする意向を示した。

さらに、日本の食品加工技術とタイ産農作物を使った機能性食品、未来型食品の開発に期待を寄せるとともに、タイのロジスティック(列車・バス・車・プラント・船)コネクティビティ改善への日本の協力も求めた。

1960 年にタイ工場を設立し操業を開始した「タイ味の素」はタイでBOI の制度を使った最初の企業だ。現在、7 工場を有するタイ拠点は、最大売上および最大利益を実現しており、世界展開での最重要拠点となる。関係企業13 社、従業員はサブコントラクターあわせて約4100 人に及ぶ。同社のタイ投資であるが、今年4 月までの累計が285 億バーツ。さらに2030 年までに44 億バーツの追加投資を決めている。

タイ味の素の坂倉一郎社長(味の素アセアン地域統括社長)によれば、タイでは高齢化社会および目に対する健康への関心が高いため、減塩・減糖の製品、アミノ酸の力を使った高齢者・アスリートの健康維持に貢献できる製品(サプリメントなど)を提供しているという。

サステナビリティーについては、二酸化炭素排出量削減においてタイでは2018 年比で91%減(スコープ1 およびスコープ2)を達成。現在、スコープ3 での削減をどうするかが最大の関心事となっている。

 一方、味の素の製造工程で、キャッサバ芋(タピオカ)を原料とするスターチ(でんぷん)を使用するが、タイではスターチの80%が輸出に回され、国内流通分は20%程度。同社はこの国内流通分のうちの20%を原材料として使用する。そのため、味の素ではキャッサバ農家への支援を重視しているが、農家が抱える課題のひとつがキャッサバモザイク病(CMD)だ。一度感染するとスターチの収量が減るため、3 年前からタイ中部カ

ンペンペット県地方自治体の協力の下、プロジェクトを展開。ロセスとしては、まず土壌調査、そして土壌に適合した耕し方や適切な肥料選別を指導することが一連の教育プログラムとなる。土壌改良のための肥料には、味の素製造工程でできたアミノ酸など栄養豊富なバイプロダクト(副産物)も使われる。これでバイオサイクルが構築され、キャッサバの収穫増もつながる。3 年前から実施しており、参画農家は150 から1600 に増加。同社はコーヒー「Birdy」も製造・販売しているため、今後はコーヒー畑にもこのプロジェクトを広めていく考えだ。

東京大学発ベンチャーとして「藻類の研究開発で人々と地球の未来に貢献する」をスローガンに、藻類に秘められた可能性を引き出し「共生・循環型」社会の実現を目指す「アルガルバイオ社」は2018 年3 月設立のスタートアップ。同社は微細藻類研究開発のプラットフォームであり、従業員51 人のうち30人以上が研究員となる。

自然界に30 万種以上存在するといわれる藻類であるが、同社ライブラリでの保有藻類数は100 種類1260 株。大江真房COO によれば、藻類を扱う企業の多くは1 ~ 2 種類の株で製品を開発しているが、同社は豊富なライブラリーがあるため、顧客ニーズの聞き取りから始め、どの株を使い、どのように培養していくかを検討し、最適解を提供できる強みがあるという。

 微細藻類は30 億年前から生存しており、生命力の強いサステイナブルな資源であることから、産業利用の余地は広範囲に及ぶ。例えば、「微細藻類から採れる成分を使った健康サプリメント」「抗酸化作用をもつ素材を抽出したアンチエージングのため化粧品」「自然由来の日焼け止め」「栄養豊富で粒子が細かく消化に良い代替タンパク」など。

地球温暖化への対応においても、微細藻類は二酸化炭素を吸収するため、培養することで二酸化炭素を減らすことができる。また、排水・有害物質・金属を吸着するため、排水浄化のための利用も可能だ。

顧客側のメリットは、(1)R&D のコストをカットできる、(2)正しい株を選択しているか、培養方法は正しいかについて助言を受けることができる―など。また、培養は室内プラントで行うこともでき、種から収穫までの期間は14 日程度。土がいらず、水や海水でも培養できるなど、場所や環境を選ばない。

昨年は28 件のプロジェクトを受注。最多は二酸化炭素の固定化や排水浄化など環境関連だ。今年から海外案件も受けており、うち1 件がタイでのプロジェクトとなる。

ジェトロへの期待として、展示会主催、協業先紹介、マッチングなどのサポート継続のほか、タイで現地法人を設立する際、タイの優秀なスタッフを雇用し現地化を図る上での助言などを求めている。

「宇宙航空研究開発機構(JAXA)バンコク駐在員事務所」の中村全宏所長は2019 年からバンコク駐在員事務所に勤務しており、2022 年4 月から所長を務めている。JAXA はタイを始めアジア太平洋域の自然災害監視を目的とした国際協力プロジェクト「センチネルアジア」を2006 年に立ち上げ。同プロジェクトでは、台風・洪水・地震・津波・火山噴火・山火事など自然災害被害を軽減もしくは予防するため、地球観測衛星など宇宙技術を使って得た災害関連情報をインターネット上で共有している。

現在、タイ北部は過去50 年で最大の洪水被害に見舞われているため、JAXA の衛星、アジア各国の衛星がタイ北部を中心に観測を続け連日データを提供することで、復興復旧に貢献している。

中村所長は、宇宙のキーワードは夢・ロマン・研究開発であり、ビジネスに結びつきにくいとの思い込みを正したいと訴える。日本では宇宙関連企業・スタートアップが100 社に達しており、投資も増えているという。また、タイを始め、アジア各国は「宇宙を経済化していきたい」との理念の下、宇宙政策を新たに立案し、そこに向かって舵を切っているとのことだ。

タイでの事業であるが、水田から多くのメタン(CH4)が排出されていることが近年判明したことから、衛星データを活用して水田からのメタン排出量を推定しカーボンクレジット化。市場を形成して販売することで農家の副収入にしょうと、現在、チャイナ―ト県、スパンブリ県、シンブリ県などで事業展開中だ。ジェトロへの期待であるが、世界に75 の拠点を持つジェトロは、その地のビジネス環境を熟知しており、現地の政府およ

び企業とコネクション、イベント開催のノウハウなど、一団体・一企業では持ちえない情報・ネットワークを有するが、宇宙についてはJAXA に一日の長があるとして、互いの強みを出し合い、タイで連携して市場創出していきたいと話す。この点については、大鷹正人駐タイ日本国大使も「強みを持ちより社会課題を解決して繁栄する未来を築いてほしい」と強調している。

なお、11 月7 日~ 9 日、ムアントンタニのインパクトアリーナで「タイランドスペースウィーク」が開催され、日系企業も出展する。

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