タイで人を雇うときに知っておきたい基本ルール
タイ人を雇用する上で重要なのは雇用・社会保障に関する法律を遵守することです。タイ日野自動車社長、タイ国日本人会会長などを歴任した大橋寅治郎氏は「日本人はタイの軒先を貸していただいて仕事をしている」と常に在タイ邦人に諭していました。日本のプレゼンスが低下している今だからこそ、日本企業の勤務環境の良さをアピールしたいものです。
労働者保護法
労働者保護法は、労働時間・休日、賃金・残業、試用期間・解雇、福利厚生・安全、女性・未成年者保護、就業規則の作成義務などを規定しています。
就業規則
雇用者は、被雇用者が10人に達した日から15日以内にタイ語で就業規則を作成し事務所に常時保管しなければなりません。就業規則は被雇用者に周知させるとともに、被雇用者が容易に閲覧できるよう事務所内の公の場所に掲示します。(労働者保護法第108条)。
自社で独自に作成するのは大変難しいので、専門家などにフォーマットを用意してもらう方がいいでしょう。雇用契約書の作成も併せて依頼することをお勧めします。
雇用での留意点❶
タイで会社を設立する際は一番最初に雇用する人材が非常に重要な役割を果たすことになります。そのため、「最初に雇用した人材が、御社の最良・最上の人材」と考え、じっくり時間と労力を掛け妥協せずに人選してください
雇用での留意点❷
職務規定書(Job Description)はできるだけ具体的に仕事内容を記し、被雇用者に署名してもらってください。就業規則についても、各社員の入社時に、「就業規則を理解し受け入れます」とする趣旨の署名を就業規則の最終ページに日付入りで入れるとよいでしょう。
労働時間・休日
労働時間は1日8時間以下、1週間48時間以下と定められています。
時間外労働(OT)は基本給の1.5倍以上、休日勤務の場合は基本給の2倍以上、また休日に8時間以上労働させる場合は、8時間を超えた分について基本給の3倍を支払わなければなりません。なお、休日の労働は従業員の同意が必要です。
また、週に最低1日の休日(通常は日曜日)を設け、勤続1年以上の者には年間最低6日の有給休暇を与えなければなりません。
試用期間・解雇
解雇にあたっては、下記の違反行為による解雇する以外、認められていません。
①会社に対する不正行為
②故意の過失
③不注意による重大過失
④職務放棄3日間
⑤禁固刑の確定
ただ、十分な証拠書類が用意できない場合は不正を働いたとしても、解雇補償金の支払いが命じられることがあるため、解雇前の対応が非常に重要となります。
従業員を労働者保護法に定められた理由以外で懲戒解雇する可能性がある場合には、雇用契約書・就業規則にあらかじめ想定した条件を記載しておいてください(ただし、労働省にその項目が有効であることを認めてもらう必要があります)
ただ、試用期間中(一般には雇用から119日以内)であれば会社都合で解雇しても解雇保証金は発生しません。それでも事前通告は必要であり、通知後2回目の給料日をもって解雇が成立します。これに反する場合、解雇保証金30日分を支払う義務が生じます。
タイでは職務遂行能力が欠けている(仕事ができない)との理由で解雇することはできません。そのため、試用期間中の見極めが大切なのですが、仮に本採用後に能力に欠ける社員をどうしても解雇したい場合には、
労働者保護法に準拠し解雇保証金を支払い、合意の上での退職である旨を一筆書いてもらうのが最善策です。日本人経営者からは「解雇した従業員から労働裁判所に訴えられた」との話をよく聞きます。タイでは労働者に対し労働裁判の垣根を低くしているため、簡単に労働裁判を起こすことができます。
なお、警告書を出す場合は、何月何日どこで、「当社就業規則 第〇条、第▲項に違反した」と、警告内容の根拠法を明記し署名をさせることが重要です。
タイでは罰金などペナルティーを課すことは原則として労働者保護法違反となります。また、事務所が遠方に移転するケースで、これに同意しないで従業員が退職する場合、雇用者は解雇保証金を支払う義務を負います。
労働者保護法が定める解雇保証金
勤続120日以上1年以下 30日分
勤続1年以上3年以下 90日分
勤続3年以上6年以下 180日分
勤続6年以上10年以下 240日分
勤続10年以上 300日分
勤続20年以上 400日分
各種休暇について
①病欠
試用期間中の従業員も含め、病気・怪我の場合、年間30日の休暇が認められます。連続3日以上の欠勤でなければ診断書の提出は不要です。そのため、「今日は風邪です」と電話すれば従業員は休むことができ、会社はそれをとがめることができません。
②有給
勤続1年を経過した社員に年間6日間以上の有給休暇を認めなければなりません。未消化分の有給休暇については雇用者及び被雇用者の事前の合意により、次年度の繰越が可能です【労働者保護法第30条】
③兵役
徴兵されたからといって解雇することはできません。また、徴兵期間中、60日間は有給休暇扱いとなります。
④出家
有給との規定はありません。そのため、各社任意で就業規則に定めます。ただしタイでは「男子の最高の親孝行は出家すること」ということは知っておいた方がいいかもしれません。
⑤出産
妊娠を理由に解雇することはできません。会社は98日の休日を認め、そのうち45日間を有給休暇としなければなりません。ただ、120日への延長などを骨子とする改正案が審議済みです。なお、妊娠していると知らずに雇用し、数ヵ月後に「出産休暇」を申請されるケースもあります。
タイの社会保障に関する法令を知る
1名でも労働者を雇用した場合、会社は30日以内に社会保険事務所に社会保険と労働者災害補償基金の加入申請を同時に行います。
社会保険法
社会保険に加入しますと指定した1カ所の病院で無料で治療を受けることができます。保険料は従業員が給与の5%(最大750バーツ)、会社が5%を毎月負担します。出産手当、失業保険なども含まれております。ただし、社会保険には日本人がよく利用する大手私立病院は含まれていません。
失業保険は15000バーツを上限に以下の手当てが支給されます。日本人も申請できます。
:自主退職の場合、給与の30%を最大90日
:解雇の場合、給与の60%を最大180日
労働災害補償法
毎年1月に労働者1名あたり、見積年間賃金(最高24万バーツ)に、業種別危険度に応じた拠出金率(0.2~1.0%)を掛けたものを全額会社負担で支払います。利率はリスクと業種により異なります。
拠出額を所定フォームより毎年申請(翌年1月末期日)し納付。毎月の保険料支払いが遅延した場合、未納額の2%の延滞料が毎月発生します。
