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トランプ関税 タイは19%で決着 1万品目以上の関税0%と引き替え

2025年7月31日(米現地時間)、ドナルド・トランプ米大統領は大統領権限である「国際緊急経済権限法(IEEPA)」に基づき、全世界に対する相互関税(Reciprocal Tariffs)を発動。タイに対しては36%から19%へ引き下げ、署名日から7日後に発効するとした。

翌8月1日、ピチャイ副首相兼財務相が新たな関税率19%が8月7日以降、タイから米国に輸出される製品に適用されると発表。「企業が安心して長期的な投資計画を立てることのできる好材料」と19%の関税率を評価した。タイでは、関税交渉が長引いたことで電子部品など部品産業を中心に輸出が2カ月ほど停滞し、特に中小企業(SME)に影響が出ていた。なお、2024年のタイの対米貿易黒字は約460億㌦(約1.5兆バーツ)となっていた。

一方、他の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の関税率は以下の通り

  • シンガポール:10%
  • カンボジア:19%
  • インドネシア:19%
  • マレーシア:19%
  • フィリピン:19%
  • ベトナム:20%
  • ブルネイ:25%
  • ラオス:40%
  • ミャンマー:40%

米政府は90日間で90件の交渉合意を目標としていたが、実際には4カ月間で合意が成立したのは日本、ASEAN(一部)、日本、EU、韓国など一部の国にとどまった。

ピチャイ副首相はソーシャルメディア上で「タイは引き続き世界市場で競争力を保ち、投資家の信頼を築き、経済拡大、収入増、新たな機会を開くことができる」と投稿した。

同日(8月1日)に開催された閣議では、19%関税に対する対応策が議論。ピチャイ副首相は閣議後、「19%関税はまだ正式な拘束力を持つ合意ではなく、今後詳細な交渉を行うことになる」と説明した。今回の交渉では関税率だけでなく、関税をかける品目の選別、投資計画、非関税障壁緩和については今後の交渉を次第となり、今後、詳細な協定案が閣議で検討される。

目次

原産地偽装対策は急務

原産地偽装対策は今回の交渉における重要項目となる。地域付加価値率(RVC)について、タイ政府は40%とする提案を行っているが、米国側は中国製品の迂回輸出を防ぐため、60%以上を要求してくる可能性があるという。これは、中国製品がタイ製品に偽装されることを防ぐためであり、両国の合意までには今しばらく時間がかかりそうだ。ただ、米国は早期に「原産地規則(Rule of Origin)」の交渉を行いたい意向を示しており、第三国を経由することで原産地を偽装した場合は19%ではなく、40%の関税を課すことを通告している。このため、タイは製品の原産地証明強化を急ぐ必要がある。この点、タイ商工会議所のパチャラ会頭は「製品ごとにRVCを明確にする必要がある。特にベトナムおよびタイ製品は米国側から第三国産品偽装(transshipment)の疑いを持たれているため、慎重な交渉が求められる」と指摘。さらにチャニン副会頭も「RVC比率の厳格化は、タイ国内サプライチェーンの保護、中小企業(SME)の競争力強化に繋がる」として、政府に対して交渉成立後の監督強化を求めた。

タイ市場開放で軋轢も

タイ市場開放であるが、以下の3つのカテゴリーに分類した上で米国との詳細交渉に臨む方針だ。

❶すぐに0%関税で輸入を認める品目(既に他国とのFTA(自由貿易協定)で0%にしている品目に限定)

❷3〜5年の猶予期間を設けた上で段階的に0%にする品目

❸現時点では開放準備が整っていないため0%適用を見送る品目

ピチャイ副首相は米国がまだタイに輸出していない製品を含め1万品目以上を0%関税にする方針を掲げている。

タイ政府はこれまでの交渉では米国からの大豆、トウモロコシの輸入を拡大することを提案。輸入量は年間100〜200万トンとすることを検討している。タイの家畜飼料原料(大豆・大豆粕)の関税率は現行で0〜2%だが、今回の交渉により更なる関税撤廃が進む見通しだ。このほか、今後10年間で80〜90機の航空機を購入し、古い機材の更新を進める計画だ。さらに、米国からの原油輸入量を全体の10%まで拡大する意向を示しているほか、LNG(液化天然ガス)の最初の100万トンは2026年から納入される見通し。

現時点で酪農家から強い抵抗にあっているのが豚肉輸入についてだ。タイ政府は輸入はごく少量(国内消費の1%以下)に限定し、極めて厳格な安全基準(赤身促進剤の禁止、工場監査義務等)を課す方針だ。しかし、

全国養豚協会会長のシティパン氏は、ピチャイ副首相に対し「米国と豚肉市場開放交渉を行わない」ことを求める文書を提出。シティパン氏は「農業者は政府との協力の下、トウモロコシなどの飼料用農作物を適正価格(湿度14.5%以下で1kgあたり9バーツ以上)で買い取るなど、損失覚悟で国内農業支援に努めてきた。生産コストの高いタイ国内養豚業者を守るためにも、米国からの豚肉輸入は絶対に許容できない」と訴える。

現在、タイ国内の豚肉生産量と消費量は概ね均衡しているが、わずかな生産過剰が発生している。そのため同協会はピチャイ副首相に対し❶今回の交渉で豚肉市場開放を決して認めないことを文書で約束すること❷将来の交渉でも豚肉市場開放を約束しないこと。仮に検討する場合で「国内消費の1%以下に数量制限」「原産地認証・工場監査など厳格な管理実施」「国内市場の需給状況を慎重に考慮」の3条件を厳格に守ることを求めた。

「豚肉は国民の食生活と直結する非常にデリケートな商品であり、タイ国内の養豚業者は世界的にも高コスト構造にある。それでも政府と協力して供給調整や価格維持に取り組んでいる。豚肉輸入交渉は業界全体に大きな打撃となるため、政府の明確な方針を求める」とシティパン氏は語気を強める。

なお、畜産飼料協会のポンサリン会長は「今回の貿易合意により、関税率に関する法改正が必要になる。特に関税率表(HSコード)、輸入割当(クオータ)に関する規則、衛生検疫(SPS)等が法改正対象となる」と述べている。

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