【製造】中国の教訓から学ぶ タイ鉄鋼業界がIF炉廃止と建材基準強化を提言

タイの建設業界で使用される鉄筋の品質をめぐり多くの課題が浮上している。タイ国内で流通する鉄筋の半数以上が、電磁誘導の原理を利用して金属を溶解する電気炉である「インダクションファーネス(IF炉)」で生産されたものであり、その品質の不安定さが指摘されている。とりわけ2025年に発生したバンコク地震は、主要建材である鉄筋の信頼性を早急に見直す必要性を改めて突き付けた。
タイ工業連盟(FTI)鉄鋼産業部会のバントゥン会長は「中国の経験を参考に、タイも工業規格(TIS)の改定を急ぐべきだ」と述べ、現在審査中のTIS 20-2559(丸鋼)およびTIS 24-2559(異形棒鋼)の基準強化を提案した。
IF炉の課題と制約
タイ国内で年間約300万トン生産される建設用鉄筋のうち、2024年時点で約160万トンがIF炉によるものだ。価格の安さから市場シェアは最大だが、IF炉は酸化・スラグ生成の工程を持たず、リンや硫黄など不純物を除去できない。さらに炉内の攪拌が不十分で、金属組織の均質化も難しい。このため引張強度や靭性が一定せず、構造物の耐久性を損なう恐れがある。
高品質な鉄筋を得るには、良質なスクラップを原料とし、レードル精錬炉(LF)などのリファイニング工程で不純物を除去する必要がある。しかしタイでは良質スクラップの供給が限られ、LFを備えるIF炉工場も少ないのが実情だ。
世界最大の供給国・中国が規制強化
中国はかつて年間1億2000万トンのIF鉄筋を生産する世界最大の供給国であったが、品質不良を原因とする建物倒壊事故などを契機に、2017年に600工場以上を閉鎖。以後は転炉(BOF)や電炉(EAF)での生産に限定し、2018年制定の国家規格(GB 1499-2018)では耐震性能を必須要件とした。さらに2024年改定では外部精錬工程を義務づけ、Tempcoreによる表面硬化手法も禁止するなど、基準を一段と厳格化している。
タイ工業連盟鉄鋼部会が提言
タイでもかつてはBOF、EAF、平炉による生産を義務づけていたが、2016年の規格改定で条件が緩和され、IF炉による鉄筋生産が合法化された。その際に導入された「精錬工程の設置」などの条件は形骸化し、多くのIF炉工場が基準を満たしていない。
FTI鉄鋼部会は今回の検討結果として、次の4点を提言した。
1.生産方法をBOFまたはEAFに限定し、耐震グレード鉄筋の外部精錬を義務化する。
2. テンパーコア(Tempcore)方式による硬化処理を禁止する。
3.疲労試験基準を強化し、地震による高周波・低周波振動双方への耐久性を確認する。
4.監視と法的規制を強化し、低品質鉄筋の流通を防止する。
同部会は「今回の改定は、タイの鉄鋼業界を次の段階へ引き上げ、インフラと住宅建設の安全性を確保するための重要な転換点になる」と強調する。
中国が過去30年にわたり高層ビルや高速鉄道網などの巨大インフラ整備を進める中で経験した「鉄筋品質の教訓」は、今まさにタイが直面する課題となっている。国際基準に沿った品質保証は、ASEAN経済共同体の中で競争力を維持する上でも不可欠といえそうだ。
