【運輸】3空港連結高速鉄道 タイ政府がウタパオ〜トラート区間の延伸打診へ

チャロン・ポカパン(CP)グループが主導する高速鉄道「3空港連結」事業をめぐり、タイ政府が同グループに対し、ウタパオ空港からラヨン、チャンタブリ、トラートまでの延伸区間への追加投資約1000億バーツを打診する方針だ。東部経済回廊(EEC)政策委員会は、既存の3空港区間の契約見直し問題とあわせて、延伸案を交渉材料に据え、長期化するプロジェクト停滞の打開策を探ることになった。
3空港高速鉄道は、ドンムアン、スワンナプーム、ウタパオの3空港を結ぶ全長約220kmのインフラプロジェクト。総投資額は約2245億4400万バーツ、PPPネットコスト方式による50年コンセッション契約となっている。2019年10月に、国鉄(SRT)とCP系コンソーシアム「エイジア・エラ・ワン(Asia Era One)」が契約を締結。同社はタイ政府からの支援金を1172億2600万バーツとする最低水準の提案で落札した。
ところが、契約後に新型コロナがタイ経済を直撃。民間側は旅客減少を理由に補償や契約条件の見直しを要求した。2021年10月には内閣が補償の枠組みを承認し、政府支援金を工事進捗に応じて分割払いする「つくりながら払う」方式への変更案も浮上したが、法務当局にあたる検事総長室が「契約原則に反する恐れがある」と指摘。このため運輸省は修正案の採用を見送った経緯がある。
2025年に発足したアヌティン政権でEECを所管するピパット副首相兼運輸相は、3空港高速鉄道の遅延を「この4カ月で必ず前に進める」と明言。11月3日のEEC委員会では、国鉄とAsia Era One、検事総長室に対し、契約見直しが法令に抵触しない形での解決案を共同でまとめるよう指示。政府として4カ月以内にプロジェクトの行方を明確にする方針を示した。11月14日には関係4者が一堂に会する協議が予定されており、支払い方式の見直しを含む争点整理が進む見通しだ。
ピパット氏はさらに、民間側の投資インセンティブを高める案として、3空港区間に続く東部延伸「ウタパオ〜ラヨン〜チャンタブリ〜トラート」区間を、CPグループに追加で任せる構想を打ち出した。延伸によりラーン・チャンタブリ・トラートの沿岸リゾートや島嶼部へのアクセスが飛躍的に向上し、EEC全体の観光・物流需要を底上げできるとの狙いがある。
国鉄が2020年に実施した調査では、この延伸区間は総延長190kmで、投資額は1017億2800万バーツと試算された。内訳は、用地取得費129億9900万バーツ、土木工事費691億4800万バーツ、電気・機械(E&M)関連120億8800万バーツなど。一方、内部収益率(EIRR)は5.39%にとどまり、政府が一般に採用する12%の基準を大きく下回り、「単独では採算が取りにくい」と結論づけられている。
国鉄はこの区間についてもPPPネットコスト方式を想定し、コンセッション期間を最長50年とする枠組みを検討している。利用者数は開業初年度で1日当たり約7400人、その後は増加を続け、2038年には約1万900人、2048年に約1万5200人、2061年には約1万9600人を見込む。運賃は初乗り95バーツ、以降1km当たり2.1バーツを加算し、ラヨン〜チャンタブリ〜トラート全線を乗り通した場合の最大運賃は494バーツになる見通し。駅はラヨン、クレーング、チャンタブリ、トラートの4駅を設け、既存の複線区間を一部活用しつつ、新線で各都市を結ぶ。
全体計画では、この延伸区間は「東部高速鉄道フェーズ2」として位置づけられ、政府資料では投資額を約1591億1100万バーツとする試算もある。
こうした数字を踏まえ、政府はCPグループに対し、3空港区間と一体で延伸区間も担う代わりに、駅周辺開発(TOD)や商業権益を組み合わせて投資採算を確保する「パッケージ案」を提示する可能性がある。ただし、延伸を既存契約に「オプション」として付け加え、新たな入札を経ずにCP側へ付与した場合、公平性や競争原理の観点からの議論が避けられそうにない。このため政府は、「延伸を認める代わりに、3空港区間での国側受益を上積みする」かたちで国庫への還元を求める方針であり、CP側がどこまで条件を受け入れるかが焦点となる。
3空港高速鉄道は、EECの中核インフラとして日系を含む製造業や物流企業の関心も高い。長期化する契約問題に決着がつき、延伸を含めた全体像が見えるかどうかは東部タイへの投資判断に直結する。CPグループが追加1000億バーツ規模のリスクを引き受けるのか、それとも政府が別の事業者や事業スキームを探るのか、今後数カ月の交渉が正念場となる。
