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【車両】EV保険料が業界内で再検討へ 損害率悪化で価格競争に限界

タイ損害保険協会は、電気自動車(EV)向け自動車保険の損益悪化が続いているとして、保険料水準の見直しが業界全体の課題になっていると指摘した。協会によれば、EV保険の損害率(Loss Ratio)は現在120%前後に達しており、保険料収入を上回る支払いが続いている。背景には、急速なEV普及と価格競争により、各社がリスクを十分に反映しない低い保険料設定をしていたことがある。

車両修理費用の高さも損益を圧迫している。EVは電池パックが車体価格の7〜8割を占めるといわれ、事故時には部分修理ではなくユニット交換となるケースが多い。このため修理費はガソリン車より約50%高いと同協会は説明する。とりわけ中国ブランド車は販売価格が抑えられている一方、純正部品が高額となる構造が、保険会社にとってリスク要因になっている。

一部保険会社は、損害率の悪化を受けてEV保険からの撤退や引き受け縮小に動いている。大手の一角であるタイのティパヤ保険は、かつてEV保険の主要引受会社とされたが、損失拡大を受けて販売を大幅に縮小したと発表した。その一方で数社は、損失覚悟で事業を継続し、データ蓄積を優先する姿勢を示しているため、短期的には保険料が大幅には上昇しない可能性も残されている。

ただ、協会は、「状況が変わらなければEV保険は業界全体の負担となり、将来的には保険料の引き上げが避けられない」と警告。実際、タイ中央銀行(BOT)の2024年家計債務報告では、自動車ローン負担の増加が家計支出を圧迫するリスクとして指摘されており、保険料上昇は消費者の車購入行動に影響する可能性がある。政府はEV産業の競争力確保を重視して、工業省を中心にバッテリー生産誘致や補修部品供給網の育成を進めているが、保険・アフターサービス面の課題は長期的な市場安定性に直結する。

協会は今後、車両本体とバッテリーを分離した保険商品設計、走行データに基づく個別リスク算定、修理部品供給の透明化などを含む制度改善を検討するとしている。EVの普及は続く見通しであるが、販売・整備・保険の三分野で持続可能な仕組みを構築できるかが、タイEV市場の成熟を左右することになる。

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