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【IT】タイ政府がStarlink全額出資案を拒否 通信外資規制と安全保障上の懸念から

チャイチャノック・チットチョープ・デジタル経済社会相はこのほど、米スペースXが衛星インターネットサービス「Starlink(スターリンク)」をタイ国内で提供するにあたり、外国側の100%出資企業として事業展開したいとの申し入れを行ったが、タイ政府としてこれを正式に却下したことを明らかにした。同相は、現行の通信関連法制が完全外資による通信事業参入を認めていないことに加え、安全保障上の懸念から受け入れは困難だと説明している。

Starlinkは地球低軌道(LEO)衛星のコンステレーションを用いて高速・低遅延のブロードバンド接続を提供するサービスであり、山間部や離島など従来の固定回線や携帯基地局が整備されていない地域でもインターネット利用を可能にするのが特徴。すでに東南アジアではフィリピンやマレーシア、ベトナムなどが同サービスの導入を進めており、遠隔地の学校や診療所、災害時の通信手段として活用されている。

一方、タイでは通信事業を営む企業は国家放送通信委員会(NBTC)から電気通信事業ライセンスの付与を受ける必要があり、Type2・Type3ライセンスでは外国持株比率が49%を超えないことが原則とされている。さらに、一般の会社法制として外国人事業法に基づく49%ルールが存在し、これを超えて外資が議決権の過半を握る場合には、別途外国人事業ライセンスの取得や個別の優遇認可が必要となる。こうした制度のもとで、通信インフラを担う企業に100%外資出資を認めることは、法制度上も例外的な扱いとなる。

同相によれば、スペースX側は米政府が同社の投資を支援する一環として「Starlink投資国では100%外資会社を認めるべきだ」とするホワイトハウスの声明が出ていると主張したが、タイ政府はその真偽を確認できておらず、現在も関係筋を通じて情報収集中という。さらに、近隣国ミャンマー国境の違法詐欺拠点でStarlink端末が使用され、米司法省が端末押収のための令状を出した事例も報じられており、衛星インターネットがサイバー犯罪に悪用されるリスクが改めて浮き彫りになっている。

今回の決定について、国内通信事業者の投資回収を守りつつ、国家安全保障とサイバー主権を優先した妥当な判断と評価する向きがある一方で、地方のデジタル格差是正や海外投資家の視線を踏まえると「保護主義的」との批判も出ている。政府は今後も海外の衛星インターネット事業者との協議を続ける方針だが、外資規制と安全保障の枠組みを維持しながら、いかに地方の接続環境を改善していくかが中長期的な政策課題となりそうだ。

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