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【製造】中国系シンケーユエン再稼働で揺れるタイ鋼材市場 製鉄業界団体は基準適合性検査など批判

タイの鉄鋼業界が再び波紋に包まれている。中国資本の製鉄企業「シンケーユエン・スチール」が、改善工事を経て操業再開に動き出したためだ。同社はこれまで、ビルの一部崩落事故で鉄筋の品質を疑問視され、約4万1635トン相当の鉄筋が一時的に押収・凍結されていた。 工業省は「基準を満たす改善が完了した企業を、いつまでも閉め続ける理由はない」と説明し、操業再開を認めた。

シンケーユエン・スチールは2011年に設立され、登録資本金は約15億3000万バーツ。タイ東部ラヨーン県の工業団地内に工場を構え、丸鋼や異形棒鋼など建設向け鋼材を生産している。中国資本による鋼材投資が拡大するなか、同社は2000トン規模の生産能力を背景に、タイ国内の建設需要と周辺国市場の取り込みを狙っている。

一方、タイ国内鉄鋼メーカーや業界団体は、公正な競争条件の確保を強く求めている。今回の案件では、シンケーユエン製の鉄筋を巡る基準適合性の検査と押収解除のプロセスが不透明だとの批判が出ており、10の業界団体が連名で、品質検査と基準運用の厳格化を工業省に要求した。特に、溶解設備にインダクション炉(IF)を用いる業者に対しては、精錬炉の設置や成分管理を義務づけるべきだとの声が強い。

工業省側は、「違反を見つければ速やかに停止し、改善が確認できれば速やかに再開を認める」という方針を示す。これは違反工場の放置を防ぐ一方、基準に従い改善投資を行った企業に再起の機会を与えることを狙ったもの。ただし、市場側からは「誰に対しても同じ基準が適用されているのか」との疑念が完全には拭えていない。

鉄鋼はインフラ投資と住宅建設の基盤であり、タイでは今後も東部経済回廊(EEC)開発や再開発案件の拡大が見込まれている。こうした中で、中国系資本を含む新規投資をどこまで受け入れつつ、国内メーカーを守るかは、関税やセーフガードだけでなく、技術基準と検査体制の運用に大きく左右される。アクセルとブレーキの踏み方を誤れば、投資マインドにも悪影響が出かねない。規格に合った製品のみが市場に出回り、原産国や資本の出所に関わらず、同じルールのもとで競争できる環境を整えられるかどうかが問われている。

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