【商業】日中対立でアジアの観光地図が変化 中国人旅客取り込みへタイ航空各社が路線・機材運用再編へ

日中関係の緊張激化が、東アジアの観光動向に影響を及ぼしているようだ。中国政府が自国民に対し日本渡航を控えるよう勧告した結果、日本行き航空券の大量キャンセルが発生し、中国人旅行者の目的地が東南アジアへと移りつつある。タイ航空各社はこの動きを新たな需要拡大の好機ととらえ、路線や機材運用の再編を進めている。
格安航空(LCC)「タイ・エアアジア」のサンティスック最高経営責任者(CEO)は、「日本路線の落ち込みは大きいが、中国人旅行者が代替先としてタイを選ぶ可能性がある」としつつも、需要の規模を見極めるには時期尚早と慎重な姿勢は崩さない。同社は国際線全体のうち中国路線を5%に縮小。パンデミック前は20%超を占めていたが、現在は中国人来訪者数が前年同期比30%減と落ち込んでおり、需給調整を余儀なくされている。その一方でインド路線やタイ国内線を強化しており、国内線市場では依然として最大シェアを維持している。
第3四半期は政権交代やタイ・カンボジア国境問題など不確実要因が重なり、アジア域内観光客の回復は鈍かったが、第4四半期は観光シーズンに当たり、搭乗率は少なくとも80%を見込む。同社はさらに2~3機を運航に追加し、保有機62機のうち60機を稼働させる計画だ。
また、同じくLCCの「タイ・ライオンエア」もナンタポーン商業部門責任者が「中国人観光客は日本以外のアジア諸国へ流れる」と述べており、タイやベトナムを主要な受け皿と位置付ける。同社は10月に中国の重慶と天津を結ぶ新路線を開設。中国路線は計9路線となった。年末年始や春節を控え、中国路線の搭乗率は高水準を維持する見通しだ。タイ国内線も休日需要で堅調に推移すると期待する。
タイ民間航空局(CAAT)は航空各社の負担軽減策として、航空燃料の物品税引き下げを財務省に要請。また、温室効果ガス削減を目的に、8社のタイ航空会社(タイ国際航空、バンコク・エアウェイズ、ノックエア、タイ・エアアジア、タイ・エアアジアX、タイ・ライオンエアなど)と持続可能な航空燃料(SAF)導入に関する覚書を締結した。
CAATは2026年から国際線でSAF混合率1%を義務化するが、2025年は0.5~1%の任意導入を目標としている。2028~2030年の運用結果を踏まえ、2031年以降はドンムアン空港およびスワンナプーム空港発の国際線で本格導入する方針だ。CAATのチャワナプレユン長官は「航空会社のコストと運賃の双方に無理が生じない形で導入を進める」と述べるなど、環境対策と経済性の両立を重視する姿勢を示す。
タイ観光スポーツ省によると、2025年1~7月の外国人旅行者数は前年同期比6.2%減の1898万人。そのうち中国からの来訪者は264万人で国別首位を維持している。中央銀行は通年で3500万人の外国人受け入れを見込んでおり、うち中国人は約600万人に達する可能性があると予測。東南アジア各国が観光客の争奪を強めるなか、タイは日本を回避する中国人旅行者の受け皿となるチャンスを迎えているようだ。
