【不動産】二極化鮮明のタイ不動産市場 好調な超高級物件 伸び悩む中間層向け住宅

タイの不動産市場は、超富裕層向けの超高級物件が好調を維持する一方で、中間層向け住宅が家計債務の重さから伸び悩む「二極化」が鮮明になっている。バンコク都心の一等地では、1戸1億バーツを超える「アルティメットクラス」と呼ばれる物件がほぼ存在しなかった2015年ごろから現在まで400戸ほど増えている。一方で、300万バーツ以下の住宅では住宅ローン審査の否決率が7割に達し、また、家計債務はGDP比104%まで膨らんでいるとされる。こうした環境下、開発各社は大量供給のリスクが小さい超高級案件に軸足を移しつつある。
その具体例のひとつがデュシット・タニが中核となって進める総事業費460億バーツの大型複合開発「デュシット・セントラルパーク」だ。バンコク都内シーロム通りとラマ4世通りの角という都心一等地に、ホテル、オフィス、商業施設、超高級住宅、そして約7ライ(約1万1200平方メートル)の屋上公園「スワン・デュシット・アルン」を一元開発する計画で、延床面積は約44万平方メートルに及ぶ。商業施設ゾーン「セントラルパーク」はセントラル・パタナが運営し、バンコクの新たなランドマークを目指す。
住宅棟「ザ・レジデンシズ・アット・デュシット・セントラルパーク」は、販売率が95%超に達しており、約170億バーツ分が成約済みとなった。残りは10戸に満たず、その中には大型ペントハウスも含まれる。標準住戸の販売単価は1平方メートル当たりおおむね40万バーツから、ペントハウスは50万バーツ台に乗る。購入者の約75%はタイ人であり、国内富裕層の旺盛な投資意欲が、マクロ経済の弱さにもかかわらず都心超高級市場を下支えしている構図がうかがえる。
プロジェクト全体は環境認証にも力を入れている。住宅部分は多戸数住宅向けの国際認証「LEED Gold v4.1」の取得を目指しており、実現すればASEANで初のケースとなる。省エネ設備や緑化空間を広く取り入れ、温室効果ガス削減を重視する世界的な投資マネーの呼び込みも狙う。タイ政府は2050年カーボンニュートラル、2065年ネットゼロ達成を掲げており、環境性能の高い都心物件は今後の開発トレンドとも合致する。
デュシット・タニ本体は、2016年に伝統的なホテル運営会社から「総合ホスピタリティ・グループ」への転換に舵を切り、ホテル、教育、不動産開発、フードサービス、関連ビジネスの5事業にポートフォリオを広げてきた。2024年通期売上高は約112億バーツと前年から7割超増加しつつも、最終損益は約2億4000万バーツの赤字。ただ、デュシット・セントラルパークの商業床引き渡しが進んだことで、第4四半期は約3億1000万バーツの黒字を確保している。
経営陣は、2025年から26年にかけて、ホテル事業は15〜18%、フードは20〜25%、教育は10〜12%の増収を見込んでおり、2025年末から本格化する住宅ユニットの引き渡しが収益の重要なドライバーになると説明する。証券会社各社も、2026年には中核利益が19億バーツ規模、売上高は約205億バーツに達するとの予測を示しており、完成後1年程度が収益のピークになるとの見方が強い。
もっとも、競合となる「ワン・バンコク」など他の大型複合開発との競争激化や、高水準の有利子負債、住宅引き渡しの遅延リスクなど、不確実性も残る。デュシット・タニの挑戦は、都心超高級セグメントの成長の可能性、そしてホテルから総合不動産企業へと変身を図るタイ企業モデルの将来を占う試金石ともなりそうだ。
