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【車両】タイ政府がEV支援策を全面調整 生産義務柔軟化で国内供給過剰を回避へ

タイ政府は電気自動車(EV)政策を多方面から見直し、国内市場の供給過剰リスクを抑えつつ輸出を促す新たな枠組みを導入した。投資委員会(BOI)はEV支援策の一部を修正し、輸出されたEV1台を国内生産義務の算定で「1.5台分」と扱う優遇措置を正式に決めた。EV購入補助策「EV3」「EV3.5」を所管する電気自動車委員会(EVボード)も同様の方針をすでに承認しており、国内市場の過熱回避と輸出強化を同時に進めるタイ政府の姿勢が明確になった。

タイは東南アジア第2位の自動車生産・輸出拠点であり、トヨタやホンダなど日系大手が内燃機関車およびハイブリッド車の主要拠点として活用してきた。一方、EV市場では中国勢が存在感を急速に高め、販売シェアの7割超を占める状況にある。政府はEV購入補助や税優遇、生産投資インセンティブを組み合わせて40億ドル超の投資を呼び込んできたが、市場拡大が続けば将来的に供給過剰が生じ、価格競争の激化や既存産業への負荷が増す懸念が強まっていた。

今回の措置は、EV3/EV3.5で求められる「輸入台数と同数以上の国内生産」という条件を柔軟に運用できるようにする狙いがある。輸出が1台であれば国内生産1台分ではなく1.5台分として扱われるため、メーカーは輸出を増やすことで国内市場への過度な投入を避けながら生産義務を満たしやすくなる。輸出報告の期限も翌年6月まで認め、運用面の負担軽減を図る。さらに、EV3.5枠の工場で生産した車両もEV3の生産補償に算入できるようにし、メーカーの工場運営を柔軟にする措置も盛り込まれた。

タイ国内市場向けの調整としては、年末商戦に対応するため、国内生産EVの登録期限を翌年1月まで延長した。また、生産目標を達成できない場合に対処するため補助金支払いの遅延を認める規定を追加。補助金をまだ受け取っていないメーカーには、これまで受けた物品税減免額の返還と罰金を条件にスキームから途中離脱する選択肢を与え、今後の生産義務が過重な負担とならないよう配慮した。技術面では、ハイブリッド車向けに新しいガイドラインを策定し、二酸化炭素排出基準、国産部品比率、安全試験など環境性能と安全性を重視した要件を設定した。

市場データでは、2025年1〜9月のバッテリー式電気自動車(BEV)の新規登録が8万7112台となり、前年同期比59%増と急拡大した。EV3/EV3.5対象車の累計登録は23万8183台に達し、参加メーカーはEV3が32社、EV3.5が11社となる。また、販売の7割超を中国系が占め、投資額は累計1400億バーツに上った。内訳は完成車生産約404億バーツ、電池生産約795億バーツ、主要部品約100億バーツ、充電・バッテリースワップステーション約60億バーツとなっており、サプライチェーン全体の裾野が急速に広がっていることがわかる。

一方で、内燃機関車の販売不振や与信厳格化により自動車市場全体は減速しており、EVの値下げ競争が続けば市場収益性が圧迫される恐れもある。ただ、EVボードとBOIは、輸出カウントの1.5倍扱いなどの柔軟策によって市場の「軟着陸」を図りつつ、タイを地域のEV生産拠点として維持する方針を崩していない。ナリットBOI事務総長は「EV3とEV3.5に基づく投資は電池や主要部品、充電インフラまで裾野を広げ、タイの自動車サプライチェーンの競争力を高めている」と述べ、輸出志向の新ルールが国内市場の安定と供給網の高度化の両立に寄与するとの見方を示す。

EVシフトが進む中、タイは生産拠点としての地位を維持しつつ、国内市場の健全な成長を確保するという難しい局面にある。今回の政策修正が輸出拡大とサプライチェーン強化にどこまでつながるかが、注目されている。

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