【経済】タイの対外純資産がGDP比20%超に ASEAN域内で存在感強める財政基盤
世界経済の不透明感が強まる中で、タイの対外純資産(NIIP)が強固な水準を維持している。2025年第2四半期時点で対外純資産は約9.5億ドル、GDP比19.8%の黒字で、域内ではシンガポールに次ぐ安定性を示す。インドネシアやフィリピン、マレーシアなど多くの新興国が海外資本に依存し、NIIPがマイナス圏にある中で、タイは過去10年で大幅な改善を遂げた。
タイの強みの第一は外貨準備である。外貨準備は2620億ドルに達し、短期外債の3倍以上をカバーする。米金融政策の変動や資本流出局面でも、バーツ安を緩和する緩衝材となる。加えて、海外直接投資(ODI)が2160億ドルを超えており、外貨収入源として海外事業が定着している。タイ企業は東南アジア各国で発電事業や小売、ホテル運営を展開しており、実体収益が国内へ還流する仕組みが広がる。
そして第二の柱は機関投資家による分散投資だ。年金基金や保険会社が海外資産を保有しており、国内景気が弱い局面でも収益源の多角化が可能となった。一方で、外国人による株式・債券保有は慎重姿勢に転じており、外資は成長性を注視しつつ投資を選別している。
ASEAN内で比較すると、マレーシアは小幅なプラス圏だが、資本流動に左右されやすい構造が続く。シンガポールはGDP比150%を超える巨額の対外資産を持つが、これと比較してもタイの改善幅は際立つ。過去13年間でNIIPがマイナス20%からプラス20%へと転じた例は域内でも珍しい。
タイ中央銀行(BOT)は外部環境の不確実性が続くとみており、為替変動の緩和策を検討している。輸出の比率が高いタイ経済は外部ショックに敏感であり、外貨準備の適正水準維持が政策の要となる。なお、国際通貨基金(IMF)は、外貨準備の健全性はアジア平均を上回ると評価している。
今後の課題となるのが、この安定性を成長に結びつける戦略だ。政府は今後の国家計画で外向き投資を拡大し、国際的な成長分野に参入する構想を進める。外部の安定基盤を活用し、産業の高度化や技術投資を促すことが、長期的な競争力の確保につながるためだ。
