【不動産】タイ高級戸建て市場が堅調 富裕層マネー流入し住宅投資加速資産防衛の受け皿に

タイ経済が全体として本格回復に至らず、中間・大衆層向け住宅市場が高金利と厳格な与信審査で伸び悩むなか、ラグジュアリー住宅の「独り勝ち」となっている。バンコクを中心に価格帯3000万〜8000万バーツの高級戸建ては販売が好調で、2024〜25年にかけての実売率は6割超に達する。購入者の多くは現金決済か、容易に融資を得られる層であり、一般市場とは一線を画す。
需要を支えるのは、30代前後の「ニューウェルス(新富裕層)」や、企業オーナーの2世にあたる「ヤングサクセサー」と呼ばれる層だ。彼ら彼女らは自宅としてだけでなく、希少性の高い都市部の土地を長期的な資産として捉え、価値上昇を見込んで購入する傾向が強い。豊富な預貯金を背景に、金融機関の与信引き締めの影響をほとんど受けていない点も特徴である。
高級住宅は賃貸投資の対象としても注目されている。バンコク都心や外国人駐在員、富裕層が集住するエリアでは、高級戸建ての賃料が月額30万〜100万バーツに達するケースも珍しくない。居住用と資産運用を兼ねた住宅購入が増えており、高級セグメントは「住むための家」から「収益を生む投資商品」へと性格を変えつつある。
一方、価格帯1000万〜2000万バーツの中上位セグメントでは、供給過剰と住宅ローン審査の厳格化が重なり、在庫圧力が強まっている。開発各社はキャンペーンや値引き、モデルハウスの積極的な活用など販売促進策を強化し、資金繰りの確保に追われている。
市場の最上位では、大手デベロッパー同士の競争が激しい。SCアセットは高級戸建てで42.21%のシェアを握り、希少な立地と個性あるデザインで差別化を図る。サンシリは著名度と手厚いアフターサービスで23.56%、Land & Housesは名の知れた旗艦ブランドにより約14.23%のシェアを維持する。さらに、アセットファイブグループは超ニッチな富裕層向けブランド「CINQ ROYAL」で独自色を打ち出す。
ホスピタリティのノウハウを強みに伸びているのがプラウド・リアルエステートである。同社は健康やウェルビーイングを前面に出したラグジュアリー住宅を展開する。最高経営責任者によれば、高級住宅の新規供給は過去2〜3年で年率約5割減少し、中小デベロッパーは新規プロジェクト立ち上げが難しくなっている。その結果、現在のラグジュアリー市場は買い手優位となり、購入検討期間は長期化、価格交渉も厳しくなっているという。
プラウド社(前出)は今後、バンコクとプーケットで新規投資を拡大する計画で、土地取得に30億バーツ超、新規プロジェクトに100億バーツ規模を投じる方針だ。サトーンやアリーといった都心の希少立地に加え、富裕層外国人が集まる観光地への展開も視野に入れる。
調査会社コリアーズの最新レポートでも、1000万バーツ超の高級戸建ては需要が堅調で、マス市場が伸び悩む中でも価格の下支え要因になっていると指摘する。
タイ中央銀行がまとめた住宅価格指数によれば、2025年第2四半期の全国戸建て価格は前年同期比約2.6%上昇しており、土地・建設費の上昇と富裕層需要が価格を押し上げている。ラグジュアリー住宅市場は規模こそ小さいが、高所得層にとっては景気変動に左右されにくい「資産防衛の避難先」として機能しており、デベロッパー各社は希少立地と独自性の高いデザイン、サービスを武器に、そのパイの奪い合いを続けている。
