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【環境】タイ宇宙開発当局が衛星18基構想を発表 PM2.5対策と宇宙産業育成を後押し

タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)は、タイ経済紙主催の「Sustainability Forum 2026」で、大気汚染対策と宇宙経済創出を両立させる長期ビジョンを明らかにした。パコンGISTDA総裁は、PM2.5対策を柱とする「クリーンエア法」や、宇宙産業を育成する「宇宙活動法」の実効性を高めるため、今後7〜8年で衛星を計18基体制に拡充する必要があると訴えた。

同総裁によると、現在タイが自前で運用している衛星は2基に過ぎず、農業、災害、国土保全、安全保障など多様なニーズを賄うには明らかに不足している。そのため、欧米や日本などから無償提供される衛星データに大きく依存しているが、観測頻度や観測条件に制約があり、特に雲に覆われた地域では情報が途切れがちとなるため、雲を透過して観測できるレーダー衛星の導入も含め、長期計画として18基体制を整える構想を掲げているという。投資総額は280億バーツ程度で、年平均40億バーツの負担にとどまる見通しだ。

GISTDAはすでに、衛星データと地上観測値を組み合わせて全国のPM2.5濃度を毎時推計するシステムを構築している。人工知能(AI)や機械学習を活用し、1キロ四方単位で大気の状態を把握できるのが特徴で、専用アプリ「Check Dust」やウェブサイト「pm25.gistda.or.th」から誰でもアクセス可能。 この背景には、東北部や北部だけでなくバンコク首都圏でもPM2.5が健康影響レベルに達する日が増えている現状がある。

GISTDAはまた、欧州連合(EU)が導入した森林減少規制「EUDR」に対応するため、衛星画像から30年以上前までさかのぼって土地利用履歴を確認できるプラットフォーム「LANDX(Land Explorer)」を無料公開している。これにより、農業事業者は自社の農園が違法な森林破壊と無関係であることを証明し、輸出市場での信頼確保につなげることができるという。

衛星18基計画は、クリーンエア法の施行を見据えた監視体制強化にとどまらず、宇宙関連ビジネスや人材育成の基盤整備を兼ねる。GISTDAは宇宙活動法により「スペースポート(ロケット発射場)」の整備も視野に入れており、赤道に近いという地理的優位性を生かして、打ち上げサービスや宇宙観光など新産業の呼び込みも狙う。

同総裁は、GISTDAを将来的に「宇宙省」に格上げする構想について、「宇宙・地理空間情報は全省庁に関わる横断的なテーマであり、必ずしも省の形態が最適とは限らない」としつつも、専任の大規模機関として体制を拡充する必要性は認めた。現在の職員数は約300人で、衛星増強や新法制に対応するための人材確保が迫られている。 PM2.5問題が深刻化するなか、宇宙インフラへの投資が「コスト」から「将来の被害を減らす保険」として捉え直される局面に差し掛かっている。

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