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【貿易】タイ鶏卵輸出6000万個で市況回復も小規模農家への価格競争圧力が長期化

タイの鶏卵市場で、過剰在庫解消に向けた政府主導の輸出策が一定の成果を上げている。畜産開発局は大手生産者16社と連携し、今年12月までに余剰卵6000万個を輸出する目標を掲げる。これにより、混サイズ卵の農場出荷価格は一時の1個3.00バーツから現在は3.40バーツまで回復した。背景には、供給過多に加え、消費低迷や学校休暇、菜食週間による需要減少が重なったことがある。

政府は卵価の急落を繰り返さないため、2026年のひな輸入割当計画を前倒しで検討。卵委員会の枠組みを通じて、ひな輸入量を管理し、市場の飽和を防ぐ狙いだ。現在、タイ国内の採卵鶏は約5236万羽と推計され、日量約4346万個の卵が生産されている。2025年第3四半期の平均生産コストは、飼料価格の下落を受けて1個3.25バーツまで低下したものの、現行の販促価格との利ざやは依然として薄い。

一方で、農場レベルでの価格安定が小規模生産者の経営改善に直結しているとは言い難い。中小規模養鶏農家で構成する中央小規模鶏卵生産者貿易協会は、国内流通を担う近代的小売り大手が、事実上のダンピングに当たる販促を続けているとし、国内取引局(DIT)に是正を求める書簡を提出した。協会によれば、一部のスーパーマーケットでは、混サイズ卵30個入りパック(3〜4号)が99バーツで販売されており、1個当たりの価格は約3.30バーツと農場出荷価格の3.40バーツを下回る水準となっている。

小規模農家側は、こうした販促が「短期間の生活支援」と説明されながら、実際には継続的に行われていると指摘する。資本力の乏しい農家には、同様の値引き販売を続ける余地が乏しく、大手との競争条件が著しく不利だという。協会は、DITに対し、こうした価格キャンペーンの一時停止か、少なくとも生産コストに適正な利潤を上乗せした価格設定を小売各社に義務付けるよう求めている。

輸出は、構造的な余剰を吸収するための重要な安全弁でもある。2025年1〜9月の鶏卵輸出量は3億8863万個と前年同期比27.31%増加した。輸出先は、シンガポールが全体の約79%、香港が9%、日本が7%を占める。畜産開発局は、家きん肉や卵など畜産品全体の輸出額について、2025年に100億ドル超の過去最高を見込んでおり、鶏卵も重要な品目のひとつとなっている。

ただ、こうした輸出拡大と生産基盤強化は、感染症リスク管理と不可分。寒暖差が大きくなる季節には高病原性鳥インフルエンザへの警戒が欠かせず、政府は防疫措置の徹底とともに、市場過飽和時には計画的な群れ削減を組み合わせる方針を示す。家計の物価負担と農家の採算、そして輸出競争力のバランスをどう取るかが、タイ鶏卵産業の中長期的な課題となっている。

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