【デジタル】世銀がタイのデジタル基盤に警鐘 ブロードバンド普及率18% PDPAも再考の余地

世界銀行は、タイ政府と共同でまとめた「デジタル・データ・インフラロードマップ(DDIR)」を公表し、タイのデジタル経済発展を阻む7つの構造的課題を指摘した。報告書は、固定ブロードバンドが全世帯の18%にしか普及しておらず、地方と都市部の格差が大きいことを最大のボトルネックに挙げ、企業や家庭の高速回線整備を急ぐよう提言している。
また、生成AIなど高度デジタル技術を扱える人材が不足している点や、個人情報保護法(PDPA)の「過度に厳格な」解釈が官民のデータ共有やイノベーションを妨げている点も問題視した。PDPAは2019年に制定され、2022年6月に全面施行されたが、罰則への過度な懸念から、行政機関の間でもデータ連携を避ける動きがみられるという。
政府データの縦割りや標準化の遅れ、クラウド活用ルールの不備、越境データ移転の枠組み不足なども課題に挙げられた。一方でタイは、国連の電子政府度指数(EGDI)で2024年に世界52位、ASEAN2位まで順位を上げており、政府は2027年までに40位以内に入ることを目標とする。報告書は、既存のデジタル政府の取り組みを土台に、データガバナンスを整えれば成長余地は大きいと評価している。
アヌティン首相は、2030年までにデジタル経済のGDP比を30%に引き上げる方針を掲げ、主要IT企業のデータセンター投資も相次いでいる。ただ、世界銀行は「接続性」「スキル」「信頼できる法制度」の3点を同時に改善しなければ、アジアの競合国に後れを取ると警告。タイに拠点を置く日系企業にとっても、クラウド活用やデータ移転の実務に直結するテーマであり、今後の規制整備とインフラ投資の進捗を注視する必要がある。とくに顧客情報や従業員データを日本本社とやり取りする企業は、同法に沿った同意取得や越境移転の手続き整備の確認と見直しが急務となりそうだ。
