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【IT】タイ発「トラベルデビットカード」 中国QR決済と連携しキャッシュレス加速

海外旅行の現場で、現金の存在感が急速に薄れている。中国や韓国、シンガポールの都市部では、タクシーや屋台を含めQRコード決済が主流となり、紙幣は「ほとんど使えない」地域も増えた。こうしたなか、タイでは複数通貨対応の「トラベルデビットカード」が、旅行者向け金融商品の新たな主役になりつつある。

従来、旅行者は空港の両替所で高いレートを受け入れるか、海外ATMの高額手数料に耐えるしかなかった。さらに、現地の決済インフラに対応していないクレジットカードも多く、支払い時のストレス要因となっていた。これに対し、トラベルデビットカードは、リアルタイムレートでの事前両替、複数通貨の一括管理、海外利用手数料ゼロ、元の口座とは切り離した利用枠設定、現地のモバイルウォレットとの連携といった機能を備え、旅行者の不満を解消する存在として台頭している。

タイはアジア有数の海外旅行市場であると同時に、中国人観光客の主要な受け入れ国でもある。この双方向の人流を背景に、クルンタイ銀行(KTB)の「Krungthai Travel Debit Card」をはじめ、カシコン銀行の「KBank Travel Card」とK+ FXウォレット、サイアム商業銀行の「Planet Card」、バンコク銀行の「Be1st Digital FXウォレット」、TMBタナチャート銀行の「All Free+FX」、CIMBの「AirAsia Traveller Card」など、大手行が相次ぎ専用カードを投入している。

なかでもKTBは、自行カードを単なる決済手段ではなく「インフラ接続ツール」と位置づけ、中国アリババ系のAnt Groupと提携。利用者は同カードをAlipayやWeChat Payなど中国の主要モバイル決済と直接連携できるよう設計した。これにより、タイ人旅行者は中国本土の地下鉄、バス、コンビニ、飲食店、ホテル、配車サービスなどで、現地居住者と同様の感覚でQR決済が可能になる。カードは20通貨への事前両替に対応し、210カ国以上で利用できる。発行銀行側のATM手数料や為替手数料は無料とし、年間最大1万バーツのキャッシュバック特典も用意する。カードは利用スタイルに応じてプレミアム、プラチナなど複数グレードを設定した。

一方、中国からタイを訪れる旅行者にとっても、仕組みは逆方向に機能する。中国人観光客は、自国のAlipayやWeChat Pay、UnionPayウォレットから、タイ国内に約260万カ所あるPromptPay(プロンプトペイ)QRコード設置店舗で直接支払うことができ、決済インフラはKTBのクロスボーダーQRシステムが担う。タイ側加盟店には即時にバーツ建てで入金され、従来のカード決済で発生していた1〜2.5%の加盟店手数料は不要となる。現金を扱わないことで、盗難や偽札、釣り銭間違いのリスクも軽減される。

中国人観光客の平均支出は1人1日当たり約6,600バーツとされる。Alipay利用者の上限は1回5,000元・1日5万元、WeChat Payは1回5,000元・1日20万元、UnionPayは1回5,000元・1日2万5,000元と、一定の高額決済にも対応する。こうした仕組みにより、屋台や地方の小規模店舗でも、追加投資なしに中国人客を受け入れられるようになり、「中国マネー」を地方経済に直接取り込める効果が生まれている。

加盟店登録は、KTBの「Thung Ngern」ウェブサイトまたは支店窓口から行う。登録完了後、自動的にクロスボーダー対応のPromptPay QRコードが発行され、中国人客は好みのウォレットでコードを読み取るだけで支払いが完了する。タイ人利用者は、スマートフォンアプリ「Krungthai NEXT」からカードを申し込むか、一部支店で即時発行を受けることができる。KTBはこうした仕組みを「ナショナルレベルのデジタル・デモクラタイゼーション(デジタルの民主化)」と位置づけ、中小事業者まで含めたキャッシュレス決済基盤の底上げにつなげたい考えである。

観光の現場が「現金不要」に向かうなか、トラベルデビットカードとクロスボーダーQR決済は、単なる利便性向上策を超え、観光収入を国内で確実に循環させるインフラとしての性格を強めている。タイの銀行各社は今後も、主要観光相手国との間で同様の連携を広げるとみられ、アジア域内旅行の決済構造は一段とデジタルシフトが進みそうだ。

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