【経済】タイ工業連盟、下院解散で景気対策停滞を懸念 「官僚がギアを抜く」リスクも指摘
アヌティン首相が下院解散したことについて、タイ最大の経済団体であるタイ工業連盟のクリアンクライ会長は、「解散自体は驚くことではない」と述べた。首相は以前からシグナルを出しており、解散の前提にも言及していたためで、解散の時期は「3つのタイミング」が予想されていたという。今回のタイミングは、そのうち最も近い「第1段階」に当たるとし、脆弱な構造の少数与党政権は、実質的に約2カ月余り国政運営を行った後、想定より約1カ月ほど早く解散に至ったとした。
一方で、やや意外だった点として、タイ貢献党ではなく人民党が解散に追い込む形で動いたことを挙げた。上院の権限を当面維持することで人民党側に連絡したところ、人民党が「MOAの破棄」と受け止めた可能性に言及した。
同会長は、下院解散後は最長で60日間の暫定政権となるため、進行中の各種施策の推進力が弱まるのではないかと懸念する。国家経済社会開発評議会が第3四半期のGDPが1.2%にとどまり、予測より0.5%低かったと発表していることから、2025年最終四半期のGDPを支えるには景気刺激策や景気下支えが必要であるとし、施策の「濃度」が落ちるリスクを危惧する。そのため、具体的な対応としては、タイ経済が「泥沼にはまった車」のようにならないよう、経済閣僚チームが打ち出した「Quick Big Win」措置の継続が極めて重要とした。
また、現在「未解決で長引いている」大きな問題が複数あるとも指摘。本来は全権政府による推進が必要として、暫定政権期となることを問題視したのが次の3点だ。
- 南部の状況:9県で深刻な洪水に見舞われた後の復旧過程にあり、暫定政権下で復旧加速が遅れたり滞ったりする恐れがある。
- タイ・カンボジア国境衝突:第2ラウンドの衝突が激化し広範囲に拡大している。貿易、観光、国境県(東北部)の農業に影響し、数十万人が避難を余儀なくされ、一部の工業団地は操業停止に追い込まれた。
- 国際交渉:タイと米国の重要交渉は「大きな宿題」として残り、停滞している。米国のような大国から、この時期にドナルド・トランプ大統領関連で交渉・連絡が入った場合、意思決定に制約が出たり障害になったりしないか不透明だ。
クリアンクライ会頭はさらに、暫定政権と全権政府は同一ではないと述べ、過去の経験として、解散が発表されると常勤官僚の多くが仕事のアクセルを緩めがちだと警告。次の政権を見極めようとするためで、結果として業務水準や官僚への指揮命令力が低下するという。そのため、関係省庁の次官らに対し、未解決の課題を引き続き強力に進めるよう求め、すでに発表・承認済みの政策・措置が十分に推進されるかを見極める必要があると訴えた。
