【商業】「Buy Now, Pay Late」市場が急拡大 若年層の隠れ債務膨張 不良債権化でタイ経済の火種に

「買ってから払う」―後払い分割(Buy Now, Pay Later=BNPL)がタイで急速に広がっている。これは、物価高で家計が圧迫され、収入の伸びが支出に追いつかない世帯が増えるなか、デジタルプラットフォームの利便性と即時性が消費行動に浸透していることによる。
地場最大手バンコック銀行は、タイのBNPL市場が2025年に14.9%成長し、規模が39億4000万ドル(約1275億バーツ)に達すると見通す。2030年までの年平均成長率(CAGR)を10.9%とした。
BNPLは、購入時に代金を全額支払わず、翌月一括払いまたは分割で支払う仕組みで、審査は最小限で短時間に完了する場合が多い。多くのプランは金利0%を掲げるが、実際には2~5カ月の長期分割で年15~25%の金利が付く例があり、延滞時も同程度の延滞利息が発生し得る。
信用情報会社ナショナル・クレジット・ビューロー(信用局)のスラポン氏は、BNPLが消費者の支出行動を変え、「借金をしている感覚」を薄める点を問題視する。現金の制約に直面せずに購入できるため、必需品に限らず不要不急の商品でも分割に慣れ、さらに他の債務と重なると返済余力が見えにくくなる。特に不安定な収入の若年層やフリーランスは、奨学金や協同組合の債務など信用局に集約されにくい負債もあり、実態が見えにくいまま膨張し、支払い不能に陥ることで一気に表面化する恐れがあるという。
また、プラットフォームが自ら信用供与を行う場合、法的には金融機関とみなされず、タイ中央銀行(BOT)の監督が及びにくい「規制の空白」も指摘されている。実務では融資に近い一方、法解釈上は分割販売として扱われ、監督ルールの差が生まれている。さらに、事業者が貸し付けを回避し、ナノファイナンスの枠組みで販売者に資金を回す一方で、購入者側は高金利の個人ローンを利用しているのと同じことになるため、リスクは事業者ではなく、売り手と消費者に¥押し付けられることになる。
同氏は、タイではBNPLの不良債権が高水準にあるとし、中国など先行国のように延滞時の利用停止など明確なペナルティが乏しい点を指摘。18~19歳でも数万〜10万バーツの与信枠にアクセスできるとの指摘もあり、20歳以上や所得要件を設ける一般の融資より入り口が広い。
BOTは金融リテラシー教育の重要性を強調し、オンライン消費とBNPL型与信を注視して必要性があれば監督の在り方を検討する考えを示している。国家経済社会開発評議会(NESDC)も、所得や既存債務の全体像と連動しない審査が過剰与信を招き得ると懸念。家計債務がGDPの89%に達する状況下でBNPLを無秩序に拡大すれば、新たな火種になりかねない。
