期間限定バンコク週報無料購読キャンペーン実施中

高付加価値化進むタイのペット産業  輸出・Eコマース・外資誘致が加速

タイのペット関連産業が量から質へと転換し、東南アジアの成長拠点として存在感を高めている。食品加工産業で蓄積した技術と原材料調達力を基盤に、世界有数のペットフード輸出国としての地位を固めつつ、高付加価値製品の開発やサービス多角化が進んでいる。商務省や業界団体の分析でも、製造から輸出、国内販売、研究開発に至るまで多層的な産業構造が形成され、外資誘致と市場成熟が同時進行する局面に入ったとの指摘が多い。

タイの強みは原材料調達の優位性にある。ツナ缶製造で生じる高品質魚介類や家禽類が国内で安定的に確保できるため、国際ブランドのOEM拠点として発展してきた。近年は日本企業の委託生産も増えており、ドライフード中心だった製品構成は、レトルトパウチなどのウェット製品、さらに人間食と同等品質をうたうヒューマングレード製品へと広がっている。衛生管理と加工技術の高さが国際市場で評価され、付加価値競争への移行を後押しする。

そして、成長の主軸となるのが輸出だ。米国、日本、ASEAN向けの出荷が堅調で、今年(2025年)も増加基調が続いている。円安で日本側の輸入負担は増したが、品質への信頼が取引維持を支えている。タイ国内市場では富裕層の需要が拡大し、欧米や日本の超プレミアム製品の輸入が伸びている。販売経路は動物病院併設店やEコマースへ広がり、ShopeeやLazada、TikTok Shopなどのオンライン購入が浸透し、市場の厚みが増した。

10月29〜31日にバンコク国際貿易展示センター(BITEC)で開催された国際展示会「Pet Fair South East Asia 2025」は今回で4回目となる。主催者によると、来場者数は81カ国から前年比11%増の1万1169人で、37カ国・地域から447社が出展した。来場者の64%はタイ、国外では中国が19.1%で最も多く、インド、マレーシア、シンガポール、台湾、フィリピン、日本などが続く。中南米や中東からの来場も増え、国際的な関心の広がりがうかがえた。

来場者の属性は輸入業者が24.1%と最多で、流通業者20.3%、ブランドオーナー18.8%、小売事業者16.1%、卸売業者12.8%と続く。出展社の75%は海外企業で、タイ116社、中国本土88社、韓国55社、日本25社などが主要グループとなった。さらに日本(JETRO)、中国(Pet Fair Asia)、イタリア(Zoomark)、韓国(aT)、台湾、スペイン、英国、米国など12カ国・地域のパビリオンが並んだほか、スタートアップ向け特設ブースも設置された。

会期中は40以上のセッションを擁するカンファレンスが実施され、1706人が参加。米WATT Global Mediaによる「Petfood Forum Asia」も併催され、加工技術セミナーには約100人が参加した。次回は2026年10月28〜30日に同会場で開催される予定だ。

政府の支援も産業拡大を後押しする。投資委員会(BOI)はペットフードや医療機器を戦略産業に指定し、法人税免除などの優遇措置を提供する。日系企業の進出も続き、研究開発投資が増加。一方、気候変動による原材料価格の不安定化や近隣諸国との競争激化など課題は少なくない。

高機能フードの開発や昆虫タンパクなど環境配慮型製品の台頭は、産業の次の成長領域と引き上げる。量産中心の時代から質とブランド価値を重視する段階へ移行したことで、タイはASEANで独自の存在感を示しつつあり、国際ビジネスの交差点としての役割をさらに強めている。

目次

「Pet Fair South East Asia 2025」
日本企業に聞く海外展開の狙い

Buddycare(バディケア)
情報開示徹底した犬用フレッシュフード

九州・鹿児島を拠点とするBuddycare(バディケア)は、愛犬用フレッシュフード「Buddy FOOD」を展開する企業だ。創業から約5年間で全国1400カ所超の動物病院と提携し、「獣医師が推奨する科学的根拠に基づいた食事」として急速に存在感を高めてきた。

最大の特徴は、原材料の透明性と栄養設計の精緻さにある。食材の産地や仕入れ企業をすべて公開し、加工品を一切使わず新鮮な素材のみから調理する方式を採用。こうした徹底した情報開示は海外でも例が少なく、差別化要因となっている。メニューは約10種類を用意し、鹿児島県産の黒毛和牛を使った商品が特に高い人気を持つ。本社が鹿児島にあることで、質の高い食材を安定的かつ比較的安価に調達できる点も強みである。

製造は人間用食品工場で行われ、鹿児島大学の犬栄養学専門家が監修するなど、科学的な裏付けを重視する。腎臓サポートや低脂肪といった予防医療的な視点を取り入れたレシピ設計を行い、フードは冷凍で1年間保存可能と利便性も高い。

一方で、海外展開における最大の課題が「冷凍輸送」。フレッシュフードはコールドチェーンに依存するため、タイなど海外市場では物流コストやインフラ面で制約が大きい。このため同社は現在、「冷凍の課題を解決する新商品」の開発を進めている。2026年中のタイ市場での発売を目指し、今回のバンコクでのペットフェアでは現地ディストリビューターの発掘に注力したところ、5社程度の企業から前向きな引き合いを得た。

将来的にはタイでの現地生産も視野に入れ、製造パートナー探しを本格化させる方針。鹿児島発の予防栄養食ブランドとして、アジア市場でどこまでプレゼンスを高められるかが注目される。

オカ
家庭用品技術生かした「滑らないペットマット」

オカ株式会社は、家庭用品メーカーが集積する和歌山県海南市に本社を置き、これまでバスマットやキッチンマット、便座カバーなどの家庭用品を製造してきた。同社は6年前からペット用品事業に参入し、滑りにくくズレないペットマットを開発したことで注目を集めている。

一般的な不織布タイプのマットは軽量ではあるが、ペットの動きによってズレやすく、足腰への負担や脱臼リスクにつながるとされる。同社が開発したペットマットは、毛足のある素材と独自のカッティング技術を組み合わせ、「めくれない・ほつれない」構造を実現した点が特徴であり、この仕様は特許を取得している。裏面には吸着素材を用いており、ペットが走り回ってもズレにくい。汚れた部分だけを剥がして洗濯機で洗うことができるため、メンテナンス性の高さも評価されている。

従来の薄いマットとは異なり、長い毛足によるフカフカとした質感も強みとなる。日本国内ではホームセンターやペットショップを中心に売り上げを伸ばしており、事業規模は立ち上げから6年間で大きく拡大した。既存の家庭用マットからの買い替え需要も取り込んでいる。

タイではフローリングやタイル床の住宅が多く、小型犬が滑って股関節を痛めるリスクが高いとされる。そうした環境のなかで、同社の「滑らない・ズレない」マットは現地ニーズに合致するとみられている。バンコクでの展示会では、3〜4社の海外企業から総代理店契約の打診があり、海外のペット数増加や為替環境を背景に、海外市場での高い需要を見込む。

同社は、人用マットで培った技術をペット向けに最適化することで新たな市場を開拓しており、今後はタイを含む海外販路の拡大に積極的に取り組む。

NEXUS Thai(ネクサス・タイ)
アルカリ電解水で消臭・除菌市場に参入

NEXUS Thaiは、バンコク近郊のラートクラバン工業団地内に製造拠点を持ち、pH12.5のアルカリ電解水を用いた消臭・除菌製品を展開している。日本市場では10年以上の販売実績を持ち、タイでは販売開始から3年目を迎えた。同社はタイでの総販売代理と製造事業を手がける。

NEXUS Thaiのアルカリ電解水は飲用不可ではあるものの、水を電気分解して製造しており化学薬品を含まない。臭い成分を香料などで包み込んで鼻に届かないようにするのではなく、臭いや細菌をアルカリの力で化学的に分解し、汚れそのものを分解するため「2度吹き不要」を強調する。ペットのトイレ周りやマット、広範囲の床面などに使用でき、安全性と汎用性の高さを両立。価格は1本300バーツ前後に設定されている。

タイではShopeeやLazadaなどのECサイトを通じたネット販売が中心で、ペットショップでの取り扱いはまだ数件にとどまる。一般的なクリーナーと比べると高価格帯に位置づけられるため、単純な価格比較では価値が伝わりにくいという課題もある。同社では、砂に混ぜる安価な消臭剤とは異なり、トイレ本体や周辺のマットなど広範囲の消臭・除菌が可能である点を強調しており、商品価値を理解してもらうためには丁寧な説明が不可欠と指摘する。

このため今後は、製品の特性を的確に伝えられる現地エージェントの獲得と、説明型販売の強化が最重要テーマとなる。具体的には、在留邦人やタイ人ペットオーナーをターゲットに、タウン誌などローカルメディアを活用した草の根的なマーケティングも検討している。

ソプラ銀座
店舗運営と商社機能の二軸で世界を狙う

ソプラ銀座株式会社は、2008年にペットシッター事業としてスタートし、現在はトリミング、アパレル、雑貨販売など幅広いペット関連サービスを展開。東京を中心にトリミングサロンを13店舗展開し、銀座・六本木など都心部の富裕層エリアに強固な店舗網を築いている。

店内には独自ブランド「COTIRA(コチラ)」や、素材にこだわる「NGUN(ヌグン)」をはじめ、シルクサプリやオーラルケア用品など多様な商品が並ぶ。日本ではペットのオーラルケアが遅れているとされるなか、同社は涙やけ対策や鉄分除去など科学的アプローチを重視したケア用品の販売にも力を入れている。

銀座店はリロケーションを経てテストマーケットとしての機能を強化しており、商品の価格帯は従来の8000〜1万円クラスから、2万〜3万円台のハイエンドラインへと拡大した。今回のペットフェアでも、日本製アパレルや高付加価値ケア用品を前面に押し出し、富裕層向け市場の開拓を進めた。

同社の海外戦略には2つの軸がある。1つは、シンガポールでの店舗展開(2店舗を予定)や、かつて一度閉じたタイでのサロン再進出など、自ら店舗を運営するモデルである。そして、もう1つが、日本各地の優れたペット商材を各国へ流通させる「商社的役割」の強化だ。今回のバンコクでの展示会では、中東のレバノンやドバイ、東南アジア各国のバイヤーからの反応が良く、即商談につながる手応えがあったという。

かつてバンコクでサロンを運営していた経験も踏まえ、今後は店舗運営と物販の二軸で、ASEANおよび中東市場における「日本ブランド」の浸透を図る方針という。

NEXT NEW WORLD
タイ産シルクを活用し「猫の腎臓ケア」

株式会社NEXT NEW WORLDは、東京都に本社を置く創業2年のバイオ系スタートアップである。大手企業から出資を受け、群馬県のシルク産業技術を基盤とした独自の「シルク溶解技術」を武器に成長してきた。シルク(絹糸)の構造を保ったまま液体化する独自技術により、新たなペットヘルスケア市場を開拓している。

同社の主力製品は、無味無臭の液体シルクサプリメントだ。液体化したシルク成分が腸内のアンモニアなど老廃物を吸着・排出し、多くの猫が抱える腎臓病のケアに寄与するとされる。猫は嗜好性が強くサプリメントを嫌うケースが多いが、同製品は無味無臭のため、フードに混ぜても約99%の確率で食べてもらえるという。

エビデンスの蓄積にも力を入れており、横浜市立大学医学部やシンガポールの国立研究機関、国内の動物病院や大学との共同研究を通じて、BUN値の低下など腎機能改善に関するデータを集めている。こうした科学的裏付けが評価され、全国2000カ所以上の動物病院・ペットショップで採用されるまでに広がった。

原料となるシルクにはタイ産のオーガニックシルクを用いている。タイから輸入したシルクを日本で加工し、高付加価値製品として再びタイを含む各国へ輸出する「逆輸入モデル」を構築。バンコクでのペットフェア出展は今回が初めてだが、タイ企業10社に加え、オーストラリア、ウクライナ、中国、シンガポール、イタリア、中東など10社以上から関心が寄せられた。春には米国のグローバルペットフェアにも出展しており、海外での認知度は急速に高まっている。

今後は、タイでの加工・生産を行うことでコストダウンとサプライチェーンの最適化を図る可能性も視野に入れる。現地ではハイエンドペットショップや獣医師向けマーケティングを強化し、高価格帯市場でのポジション確立を目指す考えだ。

同社は、もともとアパレル事業から独立した背景を持ち、蚕を育てる伝統産業が戦前の1万分の1にまで縮小した現状に危機感を抱いている。そのため、事業の目的には「日本のシルク産業の復活」と「自然素材の医療利用によるサステナビリティ推進」という理念がある。腎臓病は日本の人間医療においても大きな課題であり、将来的には人間向けドリンクなどへの応用も進めている。

この記事がお役に立ちましたら
フォローをお願いします

シェアしていただければ幸いです
目次