【車両】EV支援策に新ルール 輸出1台を国内生産1.5台分にカウント 国内供給過剰回避へ

タイ政府は、電気自動車(EV)支援策の中心である「EV3」「EV3.5」の枠組みを包括的に見直し、輸出促進と国内市場の供給過剰回避を同時に達成するための新ルールを導入した。投資委員会(BOI)が発表した新制度では、輸出したEV1台を生産義務履行の際に「1.5台分」としてカウントできる仕組みが正式に採用され、EVボード(電気自動車委員会)が11月25日の会合で承認した。各社に生産計画の柔軟性を与えることで、輸出を促し、過度な国内投入を避ける狙いだ。
タイは東南アジア第2位の自動車生産・輸出拠点であり、トヨタやホンダなど日系大手が長年にわたり内燃機関車の主要生産基地として利用してきた。一方でEV市場は中国勢の存在感が大きく、販売シェアの7割超を中国ブランドが占める状況となっている。政府はEV購入補助や物品税減免、生産投資インセンティブの複合政策を進め、これまでに40億ドル超の投資を呼び込んだが、国内市場の規模では将来的に供給過剰が生じるリスクが高まっていた。
こうした環境を踏まえ、BOIとEVボードは支援枠組みを実態に合わせて改定。今回の「1.5倍カウント」はその延長線上にあり、輸出を加速させることで国内価格競争の過熱や既存自動車産業への副作用を抑えることが狙いだ。
EV3/EV3.5は2022年に開始された購入補助と税優遇のパッケージで、輸入したEVと同数以上を国内で一定期間内に生産することを補助金受給の条件とした。今回の改定では、国内生産EVの登録期限を延長し、年末商戦への対応力を高めた。EV3では「2025年12月31日までに登録」を「同日までに販売し、2026年1月31日までに登録」に変更し、EV3.5でも「2027年12月31日までに登録」を「同日までに販売し、2028年1月31日までに登録」とする。これにより販売現場は、顧客への引き渡しと登録手続きを柔軟に調整できる。また生産目標が未達の場合は補助金の支払いを遅らせる規定を設けたほか、EV3.5枠の工場で生産した車両をEV3の生産補償に算入できるようにして、メーカーが工場稼働を最適化しやすくした。
輸出インセンティブの強化は最大の変更点であり、今回の「1.5台扱い」に加え、輸出報告の期限を翌年6月まで認めることにした。さらに、補助金をまだ受け取っていないメーカーには、これまでに受けた物品税減免額の返還と一定の罰金支払いを条件に、スキームからの途中離脱を可能とし、将来の生産義務が過度に負担とならないよう配慮した。
技術要件では、ハイブリッド車(HEV)向けの新ガイドラインが設けられ、二酸化炭素排出基準、国産部品比率、ATTRICでの安全試験などを求める内容となった。内燃機関車から電動化への移行を段階的に進めるための措置である。
市場データを見ると、2025年1〜9月のバッテリーEV(BEV)新規登録台数は8万7112台で前年同期比59%増となり、EV3/EV3.5対象車の累計登録は23万8183台に達した。スキーム参加メーカーはEV3が32社、EV3.5が11社で、中国系メーカーが販売の7割超を占める。EV関連投資額は累計1400億バーツに拡大し、内訳は完成車生産が約404億バーツ、電池生産が約795億バーツ、主要部品が約100億バーツ、充電・バッテリースワップステーションが約60億バーツとなる。
BOIのナリット事務総長は「EV3とEV3.5に基づく投資は電池や主要部品、充電インフラに裾野を広げており、タイの自動車サプライチェーンの競争力を高める」として、輸出志向の新ルールが国内市場の安定と供給網高度化の両立につながるとの見方を示した。
