【労働】タイはリストラと人手不足の拡大が同時進行 再教育・再雇用が課題に
2025年前半、世界の雇用市場は多国籍企業による大規模な人員削減に直面した。人工知能(AI)の導入と地政学的リスクを背景に、米国や欧州では自動車からITまで幅広い産業で解雇が続いた。一方、タイ国内でもAI普及や米国の関税政策など外部要因が影響し、労働市場に大きな変化が生じている。
国家経済社会開発評議会(NESDC)の四半期報告によれば、企業は正規雇用から契約・パート勤務へとシフトしており、早期退職制度を導入する企業も増えている。地場銀行大手カシコン銀行は「Retire Early, Live Well」プログラムを開始。45歳以上の従業員に転職支援を行った。
タイで続く企業閉鎖
米国はタイ製品に19%の報復関税を課し、特定品目には迂回輸出対策の追加措置も導入した。これにより輸出競争力は低下し、労働時間の短縮や雇用悪化にもつながっている。2025年1~7月の企業閉鎖件数は8069社に達し、そのうち8社は資本金10億バーツ超の大企業であった。
「Srichand」ブランドで知られるスリチャン・ユナイテッドのラウィットCEOは「45歳以上を中心に雇用慣行を見直す必要がある」と指摘。国レベルではシンガポールの事例を参考に高齢労働者の再教育や賃金調整を進めるべきと強調した。
AI導入で雇用構造が変化
AIの導入により事務職や管理部門の多くが自動化され、大企業は短期的にコスト削減に成功しているが、専門家は「国家的課題としてリスキリング拠点を設置し、中高年層が電気修理やプロジェクト管理に転換できる仕組みが必要」と提言する。
経営変革やAI導入に積極的な中堅企業ショーノーリミットのポンサックCEOも「全員を救うことは現実的でなく、一部は取り残される」として、リストラと再教育(再雇用)を社会的課題として掲げる
自動車業界では独フォルクスワーゲンが5年間で3万5000人削減。日本の日産自動車も2万人規模の削減を計画している。米国では連邦政府機関で15万人規模の早期退職が進み、AIがリストラ要因の一つに数えられている。米国の調査会社チャレンジャー社によれば、2025年1~7月に発表された解雇は80万6000件を超え、2020年以来の高水準となっている。
ただ、タイ国内ではリストラ加速の一方で、労働力不足が深刻化。タイ雇用者連盟のタニット副会長は「今年1~7月の輸出は14%増加し、失業率は0.7%と極めて低水準」と報告する。新卒者減少と若年層のフリーランス志向が正規雇用不足を招き、労働省はカンボジアやインドネシア、フィリピンからの外国人労働者受け入れを進めている。
タイは急速に高齢社会に移行しており、今後は「職を創る」より「人を確保する」ことが重要になる。フルタイム雇用は依然として需要があるが、供給側が不足している現状が浮き彫りになっている。
