【社会】タイで加速する高齢化 「65歳定年」制度への支持広がる

タイ国立タマサート大学のナタパット准教授はこのほど、公務員および複数の一般企業の定年である60歳を65歳に引き上げることに賛意を示した。タイも高齢化が進み、定年が60歳のままでは退職後に金銭的困窮に直面する人が増えると懸念されるためだ。同准教授は「日本、フィンランド、米国では定年が65歳以上に延長され、特に日本では一部で70歳定年も導入されている」と指摘した。
国家経済社会開発評議会(NESDC)によると、タイの高齢化率は2023年に「高齢社会」へ移行した。労働人口の減少に伴い、働き手の社会保障費増大が懸念される中、定年延長は労働力維持と年金制度の安定に直結する。政府も年金基金改革や再雇用制度の整備を議論しており、学者の提言は今後の政策議論に影響を与える可能性がある。
タイにおける定年制度の現状と課題
タイにおける定年制度は、一般企業と公務員で異なる仕組みを持つ。まず民間企業については、労働保護法(Labour Protection Act)において一律の定年年齢は規定されていない。そのため、実際の定年は各社の就業規則や労働契約に委ねられているのが実情。そのため複数の企業が政府機関と足並みをそろえ、定年を60歳にしている。ただ、労働保護法の規定により、定年到達は「解雇」と同等に扱われるため、勤続年数に応じた退職金の支払いが義務づけられる。例えば、勤続10年以上の場合は給与300日分以上の退職金が必要となる。
一方、公務員については国家公務員法に基づき、原則として60歳に到達した年度末で退職することが定められている。ただし、特殊技能を有する職員や大学教授など一部の職種は65歳までの延長が認められており、医師や研究者など労働力不足が指摘される分野で活用される例が多い。
また、軍や警察も原則は60歳定年であるが、人事上または国家安全保障上の理由から延長される場合がある。政治任用職の大臣や国会議員は任期に従うため、定年の直接的な適用は受けない。
NESDCの試算では、2035年には高齢者比率が30%に達し、社会保障費や労働力不足が深刻化する。このため、民間企業では定年を65歳に延長する議論や再雇用制度の整備が進められており、公務員についても特定分野で延長が広がる可能性が高い。
