【車両】2月のタイ自動車市場 原油高でEV関心増も国内販売は減少続く EV生産急増で試される購買力

タイ自動車市場で、原油高を背景に電気自動車(EV)への関心が高まる一方、国内販売はなお力強さを欠いている。タイ工業連盟(FTI)によると、2026年2月の自動車生産台数は11万7952台と前年同月比3.43%増となり、1〜2月累計でも23万6338台と前年比で6.87%増加した。生産面では回復の兆しが見えており、2月は輸出向け乗用車生産が前年比で22.83%増え、国内向けピックアップ生産も同55.98%増と大きく伸びた。EVも増産が目立ち、バッテリー式電気自動車(BEV)の生産は3846台で71.54%増、電動ピックアップは460台で100%増となった。
ただし、FTIはタイの生産水準がなお過去のピークには戻っていないとみる。2018年の生産台数は217万台で過去10年で最大だったのに対し、2025年は145万台にとどまった。2023年以降は金融機関の融資審査厳格化が続き、タイの自動車購入の90%がローン利用であることから、新車購入を断念する消費者も相当数いたようだ。
販売面では、EVも例外ではない。BEVの国内販売は6168台で前年比18.56%減となり、生産の伸びと逆行。主な要因として挙げられているのが、補助金支給や税制優遇などを骨子とするEV3.0支援策の終了だ。ただ、HEVは引き続き成長し、PHEVは大きく落ち込んでおり、消費者が移行期により柔軟な技術を選好していることがうかがえる。
原油価上昇がEVへの関心を押し上げたとしても、購買力そのものが弱ければ販売の底上げにはつながりにくい。中東はまた、タイの完成車輸出先として第3位であり、構成比は21.17%に達する。2026年2月の中東向け輸出は8万1195台で前年比0.05%減とほぼ横ばいだったが、ホルムズ海峡を通過できず、インドやシンガポールで待機する車両が出始めているという。2025年の中東向け輸出台数は20万1台で前年比0.61%増、金額は1200億バーツ超であり、内訳はピックアップが11万4644台で最多、乗用車が6万1958台、PPVが2万3359台など。中東向けの物流が滞れば、タイの輸出採算や在庫回転に影響が及ぶ可能性が高い。
さらに、供給面にも先行き不透明感が漂う。FTIによると、現時点でメーカーの部品在庫は約3カ月分あるため、直ちに生産に支障が出る状況ではなく、車両価格もまだ引き上げていない。ただ、中東紛争が3カ月を超えて長期化し、物流費や原材料価格が上昇すれば、将来的な値上げは避けられない。とりわけ一部航路では海上運賃が3倍に上昇しており、紛争がサプライチェーンに波及すれば、半導体不足の再燃も懸念材料となる。なお、FTIは短期的には生産・輸出とも年間150万台の目標を据え置き、年央に再評価する方針だ。
一方、アジアのEV販売現場では原油高を追い風とする動きが出ている。ブルームバーグの報道によると、フィリピン・マニラのBYD販売店では直近2週間の予約台数が前月1カ月分に匹敵した。ベトナム・ハノイのVinFastでは来店客数が4倍に増え、イランでの戦闘開始後3週間で250台を販売、週平均80台超と2025年平均の2倍に達したという。アジア開発銀行のチーフエコノミスト、アルバート・パク氏は、油価上昇はEV移行を加速させる典型的な要因と指摘。ブルームバーグ調査部の分析では、世界的なEV普及により、過去1年間で原油需要を日量230万バレル相当削減したとしている。
ただ、タイ市場への波及については限定的とする見方も根強い。MGセールス・タイランドの幹部は、戦争と原油価上昇でEV需要が多少増える可能性はあるが、大きな押し上げにはならず、2026年の市場規模は2025年並みの約12万台にとどまるとの見通しを示す。EV3.0終了の影響の方が大きいとの判断だ。原油高はタイのEV市場に一定の追い風を与え得るが、それだけで需要を大きく押し上げる局面にはないと見る向きが多い。
