【商業】タイ競争委、SMEへの支払い遅延を法規制へ 未払い年2000億バーツ問題視

タイ取引競争委員会(TCC)は、中小企業(SME)への支払い遅延を防ぐための指針「クレジットターム(信用供与期間)ガイドライン」を、単なる指針から法的強制力を持つ下位法令に格上げする方向で検討に入った。TCC委員のウォラワン・チットアルン氏が8月17日の委員会後に明らかにした。違反した事業者には取引競争法(2017年施行)に基づく罰則が科されることになる。今後、公聴会を経て、10月ごろの施行が見込まれている。
現行のガイドラインは2021年半ばから運用されているが、あくまで指針にとどまるため、順守されないケースがほとんどだったという。ウォラワン氏によると、とりわけ卸売・小売業の大手企業の間で、SMEから仕入れた商品の代金支払いを規定より遅らせるケースが目立ち、60日、90日、時には180日にまで遅延するケースもあるという。こうした遅延により、SMEの資金繰りを著しく圧迫し、事業継続が困難になるケースも出ている。
ウォラワン氏はSMEへの聞き取りから、大手企業が支払いを滞らせている代金は年間で2000億バーツを超えるとの見方を示す。本来SMEに帰属すべき資金であるにもかかわらず、大手企業側は銀行借り入れを避けるため、SMEに支払うべき金額を他の投資へ回し、利息負担なく多大な利益を得ているのが実態だという。「ガイドラインが法制化されれば、大手企業はこれまでと同じことはできなくなる。違反すれば法律上の罰則を受けることになる」とウォラワン氏は述べた。
法令の主な内容
新たな下位法令でも、クレジットタームの上限に関する主な内容は現行ガイドラインを踏襲する。農産物取引は最長30日、貿易・製造・サービス分野は最長45日とし、起算日は商品の全量引き渡し日または合意した比率での引き渡し日とする。このほか、正当な理由なく支払いを遅延させる行為や、SME側に不必要な負担を強いる特別な条件を設定する行為なども、不公正な取引慣行として禁止される。
ウォラワン氏は、TCC事務局では今後、より積極的な取り組みを推進すると説明。これまでのように中小事業者からの申告を待つだけでなく、事務局自ら企業を訪問して聞き取りを行い、不公正な取引慣行を継続的に監視する体制へ移行するという。クレジットタームについても同様に、違反が確認されれば速やかに法的措置を取る方針だ。
今回の動きの背景には、タイのSMEを取り巻く経営環境の悪化がある。国内景気の減速や家計債務の高止まりを受け、SME向け融資の不良債権比率は上昇を続けており、2026年6月時点で10%を超える水準に達しているとの民間データもある。SMEはタイの雇用の7割近くを占める一方、国内総生産(GDP)に占める割合は3割程度にとどまり、韓国など先進国と比べても低い水準にある。資金繰りの厳しさが増すなか、取引先からの支払い遅延はSMEの経営体力をさらに奪う要因となっており、支払い遅延の是正は、こうした構造的な問題への対応策の一環とも位置付けられる。
タイ政府はこのほか、フードデリバリーや配車サービスなどのデジタルプラットフォーム事業者を対象とした新たな規制についても、8月末を期限にパブリックコメントを実施しており、中小事業者を大手企業や巨大プラットフォームの不公正な取引慣行から守る動きが並行して進んでいる。
タイでSMEと取引を行う日系企業にとっても、今回の法制化は無関係ではない。仕入れ先や販売先の多くが中小規模の現地企業である場合、支払い条件の設定や運用が法令順守の観点から見直しを迫られる可能性がある。10月の施行時期をにらみ、契約実務の確認を進めておくことが望ましい。
