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【労働】タイ政府 社会保険料算定賃金上限を引き上げ 26年から3段階で2万3000バーツへ

タイ内閣は2025年12月2日、民間労働者を対象とする社会保険料算定の賃金上限を段階的に引き上げる省令案を承認した。これにより、2026年1月1日から社会保険制度における各種給付水準の底上げが本格的に始まる見通しだ。

現行制度では、保険料を計算する賃金の上限が1995年以来、月1万5000バーツに据え置かれてきた。このため、賃金が1万5000バーツを超える被保険者からは、それ以上賃金が高くても拠出額・給付額が変わらず、実勢賃金に見合う給付を受けにくいという不満が出ていた。また、この間に最低賃金や平均賃金は大幅に上昇し、現在の日額最低賃金の上限は400バーツに達している。物価水準の上昇や国際労働機関(ILO)第102号条約が示す基準との乖離が大きくなったこともあり、政府は高齢化の進行を踏まえた制度の持続可能性強化を目的に見直しに踏み切った。

社会保険料の拠出率は賃金の5%で据え置かれるが、拠出額を計算する賃金レンジは見直される。現行は月1650〜1万5000バーツの範囲を対象としているが、新制度では賃金上限が3段階で引き上げられる。第1段階は2026〜2028年で算定賃金の上限を月1万7500バーツに、第2段階の2029〜2031年は2万バーツに、2032年以降の第3段階では2万3000バーツに引き上げる計画だ。保険料率5%の内訳は、例えば被保険者2.5%、雇用主2.5%、国庫0%など、合計で5%になるよう配分される。

賃金上限の引き上げに伴い、上限に達する被保険者の自己負担も段階的に増える。現在は賃金上限1万5000バーツに対し、被保険者の拠出上限は月750バーツとなっているが、第1段階では875バーツ、第2段階では1000バーツ、第3段階では1150バーツへと上昇する。雇用主側も同額を拠出するため、企業の人件費負担もそれに応じて膨らむことになる。

一方で、被保険者にとっては拠出額の増加と引き換えに給付水準の向上が見込まれる。老齢年金や傷病手当、失業給付などの算定基礎となる賃金が上がることで、将来受け取る給付額が底上げされるためだ。具体的には、第1段階が始まる2026年時点で、傷病や失業、障害時の所得補填給付の月額上限は、現行の7500バーツから8750バーツに引き上げられる。老齢年金も拠出期間に応じて増額され、拠出期間15年のケースでは月額年金が3000バーツから3500バーツに、25年拠出では5250バーツから6125バーツへ上昇する見通し。中間層以上の被保険者にとって従来的には「掛け金に見合わない」とされてきた給付水準が、実際の賃金水準に近づく効果が期待される。

制度全体でみれば、拠出額の増加は社会保険基金の収入基盤強化につながるが、雇用主側、とりわけ中小企業にとっては人件費負担が段階的に増すことから、収益力の低い企業では経営を圧迫するとの懸念も根強い。

今回の社会保険料算定の賃金上限引き上げは、タイの社会保険制度を高齢化社会に対応させるための初期的な改革とされている。もっとも、長期的な制度の持続性を確保するには、賃金上限の引き上げだけでは不十分との見方も多い。今後は、保険料率そのものの見直しや退職年齢の引き上げ、給付設計の再検討など、追加的な制度改革を巡る議論が本格化する可能性が高い。

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